病院で起きかねない赤ちゃんの取り違え事故はよくドラマの題材となるが、フランスのロレーヌ・レヴィ監督(54)が手がけた「もうひとりの息子」は、さらに複雑な事態を招く要素が加味された。事故の当事者は、それぞれユダヤ教とイスラム教を信仰する家族なのだ。
テルアビブに暮らすイスラエル人の青年ヨセフ(ジュール・シトリュク)は、兵役前に義務付けられた健康診断を受け、遺伝的に両親(エマニュエル・ドゥヴォス、パスカル・エルベ)の実子ではないことが判明した。病院側の調査で出生時に乳児の取り違いが明らかとなり、パレスチナ自治政府・ガザ地区に住むアラブ人の青年ヤシン(マハディ・ザハビ)が本来あるべきヨセフの姿だった…。
レヴィ監督はユダヤ人の家庭で育ったフランス人女性で、大勢の親戚(しんせき)をナチスの強制収容所で失った忌まわしい過去を持つ。自身を「ユダヤ性を帯びた無神論者」とも公言しているせいか、本作の出来栄えはユダヤ、アラブのいずれの側にもくみするものではなく、一人の人間として悲劇に直面した登場人物たちの葛藤がうまく切り取られている。