ゼロからは何も生まない
この紛争地域で大昔から続く仲たがいの解決には、少なくとも前向きな「未来志向の態度が必要」との思いが強い。「映画では結果的に2人の息子たちは紆余曲折を経て、両方の家族に受け入れられていますよね」と念を押すほどだ。日本に「生みの親より育ての親」との言葉があることや、本作を夢物語と突き放す批評家がいることも承知しているが、ゼロからは何も生まないからと、レヴィ監督は意に介さない。
物語を穏やかな着地点へと導いたのは、度量の大きい2人の母親(ドゥヴォス、アリーン・ウマリ)だ。レヴィ監督は「かつてのルーマニア大統領夫人、エレナ・チャウシェスク(1916~89年)のように権力を欲しいままにした男勝りの女性もいましたが」と前置きしたうえで、「一般に女性は男性よりも権力や戦いを好まず、世の中の動きをおなかで感じとる存在」と捉えている。