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まち全体が「没入型の体験」を創出 小売再生のプロも驚く“谷根千エリア”

 商品をつくって売ることの先にあるもの

 <キーワード5>真のコンバージョン True Conversion 購入が目的ではない

 体験の重要性は理解しつつも体験への投資がどれだけ売上につながるかがわからないために二の足を踏む企業も多いのではないだろうか。スティーブンス氏はこの点について、以下のように述べている。

 「体験への投資が結果的に売上に結びつくことは様々な調査でも明らかになっています。しかしより重要なのは、コンバージョンの定義そのものが変わりつつあるということです。モノを売るために体験を用意するという発想から、顧客に感動的な体験を与えるという本質的なコンバージョンへ意識を切り替えなければなりません」

 これまでの企業は、商品をつくって売ることが主な収益源だったために売ることをゴールに据え、見込み客をふるいにかけて購入にまで導くファネル型のマーケティング手法を是としてきた。しかし顧客自身が強力な発信力を持ち始めたいま、購入はむしろブランド体験におけるスタート地点である。購入は目的ではなくよい体験をつくるための手段であり、その前提を変えることなしに真に顧客を感動させる体験をつくることはできないのだ。

 小売再生はたった1人の情熱から始まる

 <キーワード6>体験企業 Experience Company すべての企業は「体験企業」になる

 スティーブンス氏の主張は以下の一言に集約されると言っても過言ではない。

 「これからはすべての企業が“体験企業”になる」

 ただしここで言う体験とは店舗体験のみならず、顧客がその商品や店舗に接する体験すべてを指す。企業が顧客に提供する価値はモノ自体ではなく、そのモノを通して得られる体験だからだ。

 たとえ店舗を持っていない企業でも、顧客に何かしらの価値を提供している以上は常に「体験」への評価からは逃れられない。データやコミュニティはすべて魅力的な体験を創出するための手段であり、どの企業も顧客に提供したい体験価値から逆算して施策を考える必要がある。

 つまり体験は店舗に限った話ではなく、商品やサービスを認知してから実際に使用し、ブランドから離れていくまでの間、すべての行為がスムーズに行えるように設計する必要があるということだ。そして「理想的な体験は常にたった1人の情熱から始まる」とスティーブンス氏が語ったように、顧客に提供する体験価値を考え抜く1人の情熱こそが小売再生の鍵となるのだ。

 最所 あさみ(さいしょ・あさみ)

 リテイル・フューチャリスト/noteプロデューサー

 大手百貨店入社後、ベンチャー企業を経て2017年独立。ニューリテールにまつわるコンサルティングや執筆、コミュニティマネジメント、イベントプロデュースを行う。またnote有料マガジンを通して独自の考察や海外事例の紹介、小売や店舗を軸にしたコミュニティ運営を行う。2019年7月よりnoteプロデューサーに就任。ブランドや店舗オーナーがnoteを通して発信し、顧客とコミュニケーションをとる活動全般を支援する。

 (リテイル・フューチャリスト/noteプロデューサー 最所 あさみ)

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