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まち全体が「没入型の体験」を創出 小売再生のプロも驚く“谷根千エリア”

 リアル店舗に必要なのは“スクリーン”より“没入感”

 <キーワード3>スクリーンレス Screenless 過剰なテクノロジーはいらない

 活気に加え無印良品銀座店でスティーブンス氏が注目したのが、店内に設置されているスクリーンの少なさだった。店舗の最新事例を語る際にはテクノロジーの導入に言及されることが多いが、テクノロジーを使えばいい体験がつくれるわけではないとダグ氏は語る。

 「わたしたちはすでに多くの時間をスクリーンに接しながら暮らしています。ただでさえ日頃からスクリーンを見ているのに、わざわざ別のスクリーンを見るために店舗に行きたいと思うでしょうか? 店舗がやるべきことは、スクリーンを見ることすら忘れてしまうほど没入感のある体験をつくることなのです」

 現代の消費者はそれぞれポケットにスマートフォンという名のスクリーンを所持しており、気になったものがあれば自分で調べることができる。最先端の大型スクリーンを店内のあちこちに設置するよりもまず商品を体験してもらうこと、そして顧客がより詳しく知りたいと思ったときにスムーズに必要な情報にたどりつけるように設計することこそが、真のO2O(オンラインからオフラインへ送客する)戦略と言えるだろう。

 なぜ「谷根千エリア」に世界は注目するのか

 <キーワード4>没入型の劇場 Immersive Theater 非日常体験をどう生み出すか

 スティーブンス氏は、今回の来日時に単体の店舗だけではなく、まち全体で店舗の価値を上げている谷根千エリア(谷中・根津・千駄木)を訪問した。谷根千エリアには昔から地域で愛されてきた店舗や行き交う人同士が親しげに挨拶する姿など、ノスタルジーを感じる景色がそのまま残っている。一方で、食べ歩きや古民家をリノベーションしたおしゃれな雑貨店も点在し、観光地としての楽しみも多い。

 統一されたまちの雰囲気がありつつも、それぞれの店舗オーナーが情熱を持って営む店舗が点在している谷根千は、さながら自然に出来上がったテーマパークのようであり、スティーブンス氏はそれを「没入型の劇場」という言葉で表現した。

 「店舗はメディアになる」とスティーブンス氏は著書『小売再生』のなかで語っているが、それは単に店舗がショールーム化するという話ではない。メディアのようにコンテンツが文脈をもって編集され、学びや気づきを得られる場所になっていくという意味である。そしてその体験はもはや買い物体験ではなく、劇場や映画館で上映される物語に自分自身が入り込んでいるかのような没入型の体験なのだ。

 谷根千エリアの魅力のひとつに、「まちの案内人」としてのホテルの存在がある。それが谷中に位置する分散型ホテル・hanareだ。hanareは「まちに泊まる」というコンセプトのもと、通常であればホテルに併設されているレストランや浴場を谷中のまちに点在する施設で代替し、宿泊者がまちを回遊するような仕組みをつくっている。さらにチェックインの際にまちを訪れたきっかけや趣味をヒアリングし、それぞれのゲストにあった楽しみ方を案内する。

 小さな店舗は、店舗面積も小さく取扱商品も少ないぶん、単体では没入型の体験を創出することが難しい。谷根千エリアは情熱にあふれた「個人の店」のネットワークによってその不利な点を克服し、まち全体で記憶に残る没入体験をつくることに成功している。

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