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自分の身を会社に委ねる人 異文化に触れて目覚める人
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「そういえば海外って殆ど行ったことがないんですよね。数回かなぁ。それも台湾とか香港などアジアの近いところばかり。ちょっと遠くて新婚旅行でいったハワイ。ぜんぶ遊びです。仕事は外国語にはまったく縁ないですからね。ええ、英語はまったく喋れません」
彼は中堅企業のサラリーマンだ。都内の取引先を開拓する営業の毎日だ。休日は幼稚園に通う子供を連れて自宅近くの海辺を散歩。心の平安を感じるひとときだ。書店でたまにビジネス書を手にとるが、オドロオドロシイ題名から進んで読む気になれない。
30代半ばにして、これからのキャリアを考えないわけではない。会社では英語の検定試験を受ける同僚が徐々に増えている。プレッシャーはかかる。でもいつ使うともしれない英語のために時間を割くのがいいのかと迷う。その場になればできるだろう、とも思う。自己投資するにしても他にやることがあるのではないか。
しかし、海外とはまったく関わりがなかった会社だが、同期の一人が突然ジャカルタに長期出張になり心が揺れる。「やはり、英語くらいはやっておかないとダメかな」と。
77年会という集まりが東京にある。フランスのニースと東京にミシュラン一つ星のフランス料理レストランをもつ77年生まれのシェフ・松嶋啓介さんが中心になり、毎回ゲストを呼んで自己啓発やネットワークつくりに励んでいる。参加者の条件は77年生まれ。即ち30代半ばだ。ぼくもゲストとして話をしたことがある。
松嶋さんは「世界に出る事だけが全てじゃないですが、多くの同世代が世界に出る事で異文化に触れていろんな価値を知ったもらったうえで、日本を一緒になって変えもらいたいんです」と話す。
同じ年齢であることが絆を作りやすい。これが77年会の狙いだ。「共に創造して行こうという強い気持ち、共創力が世界との勝負する為の競争力になるはずだと思っています」と松嶋さんは強調する。そして外への発信力の増強を目指している。「リア充」が多くとても活発な空気があり、今後も応援していこうと思う。
ただ、多分…ぼくが冒頭で紹介した「彼」は、ここには来ないだろう。自分の身を会社に委ねている彼にとって、自分の人生は自分で切り開こうと思っている人たちの声は心地よくない。「目覚めた人たち」を前に正直、心を乱されたくない。
啓発的な集まりに参加しない人たちのほうが圧倒的に多い。参加する人は日課のように色々な場所に顔を出す。「グローバル市場で戦わないのは墓場に足を半分突っ込んでいるのも同じだ」と威勢よく煽られると奮い立つ(らしい)。かといって何か行動に移すかといえばそうでもないのだが…。
だが、ぼくの一番の問題意識はここにない。
なかなか本音を出さない人たちは、「グローバリゼーションの対応をどう考えるのが良いか?」と思っているのだろうか。自ら一歩踏み出す準備をしていない人たちはとりあえず何をしておけばいいのか。
外国語ではない。英語やその他の言葉ができればできるほどプラスだが、いつ使うともしれない言語を学ぶほど余裕はないはずだ。考え方の違いを知るという利点があるが、一生仕事で外国語を必要としない確率が高いなら他のことを考えた方がいい。
何処にいても要求され、突如違った文化圏ともつきあわざるを得ない状況で最大限に活用できる力は何か?
それはコトの文脈を読む力だ。
現象の背後にある「なぜ」を探る旅が自分の頭の中だけでできるかどうか。もちろん友人やソーシャルメディアの手助けを拒否するわけではないが、文脈そのものは自分のなかで組み立てられる。
それなら英語を勉強した方が楽だって?それができれば会社に人生を委ねていないって?
そうかもしれない。しかし敷居の高い課題でもないはずだ。毎日英語を勉強するより、よっぽど「語学学習下手」には楽だ。だいいち退屈じゃない。
ぼくは、即行動に移す人達の背中を押すことはもちろんだが、一方で慎重にことを考える人たちが変化に対して「何を備え何をほっぽっておいてよいか」を一緒に考えていきたい。