ニュースカテゴリ:社会科学技術
眠れる“都市鉱山”中国流出を防げ 小型家電リサイクル開始へ
更新
小型家電リサイクル制度の仕組み 携帯電話やパソコンなど小型家電をリサイクルする新たな制度が4月1日から始まる。従来の家電リサイクル法で回収が義務づけられているエアコンやテレビなど4品目以外を対象に、市区町村が消費者から回収し貴金属などを取り出してメーカーが再利用する仕組みだ。
制度には「都市鉱山」と呼ばれる都市に眠った貴金属やレアメタル(希少金属)などが中国をはじめ海外へ流出している実態を食い止める狙いもある。
回収対象となる小型家電の中でも、携帯電話はインジウムなど20種以上のレアメタルが含まれる上、携帯1万台から50グラムの金が取り出せる。これは天然の金鉱ならば50トン分掘らなければならない量で、都市鉱山として有望視されている。
携帯電話会社などが回収を進めるが、平成12年度の1361万台から減少傾向で23年度は696万台。業界団体の電気通信事業者協会は「個人情報や写真などが保存されている上、高機能なスマートフォンはカメラやゲーム機などとしても使われ、消費者が手放したがらない」と分析する。
一方で海外への輸出は続いている。物質・材料研究機構の原田幸明特命研究員(61)によると、携帯電話などの「電子廃棄物」は有害物質も含んでおり、バーゼル条約で国際移動が規制されている。
原田さんは「中古品の『再利用』名目にして、中国などアジアへ輸出されている。海外で貴金属やレアメタルが回収され、残りは不適正に捨てられている場合も多い」と指摘。こうした実態は、カラスのようにいいとこ取りで食い散らかす「鴉食(あしょく)リサイクル」と呼ばれているという。
国立環境研究所の寺園淳室長(47)=資源循環=が日本の貿易統計で推定したところ、中古携帯は23年、香港へ約3万4千台、アフガニスタンへ約2万7千台、イランへ6900台が輸出されていた。
中国は中古家電の輸入を禁じており、寺園室長は「実態は不明だが、香港へ輸出された中古携帯は中国本土へ再輸出、つまり密輸されている恐れがある」と懸念する。
新制度は、制度そのものも「壮大な社会実験」といわれる。家電リサイクル法は消費者とメーカーにリサイクルを義務づけるものだが、新制度は消費者からは基本的に無料で回収し、メーカーが取り出した貴金属などの売却益で経費をまかなうビジネスモデルだ。
原田さんは「いわば『もったいない精神』による善意のシステムであり、世界でも例がない。家電リサイクルも当初は欧州から『消費者に回収費を負担させると不法投棄が増える』と揶揄(やゆ)されたが、日本人は生真面目なので成功した。レアメタル供給の安全保障という意味からも長い目で育てたい」と話す。
回収対象は携帯電話やカメラから炊飯器、電子レンジ、扇風機、アイロン、掃除機、こたつ、ストーブ、ドライヤー、芝刈り機などまで、家電リサイクル法が対象とするエアコン、テレビ、冷蔵・冷凍庫、洗濯・乾燥機の4品目を除くほぼ全て。市区町村が回収ボックスを設置したり、従来通り資源ごみとして回収したりし、国の認定事業者へ引き渡して再資源化する。昨年11月の環境省の調査では全国の市区町村の34%が制度参加の意向。携帯電話会社などによる回収も従来通り行われる。