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異例の経団連会長人事、“意中の人”固辞で苦肉の人選 組織改革も課題

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異例の経団連会長人事、“意中の人”固辞で苦肉の人選 組織改革も課題

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インドネシアの財界人に自社技術を説明する東レの榊原定征会長(左)=昨年3月、ジャカルタ市内  経団連の次期会長が、元副会長の東レの榊原定征(さだゆき)会長に決まった。副会長OBを会長に起用する異例の人事は、米倉弘昌会長が“意中の人”だった日立製作所の川村隆会長に後継を断られ、旧知の盟友に頼った苦肉の人選にほかならない。(早坂礼子)

 米倉氏は昨夏から年末にかけ川村会長に再三、次期会長就任を働きかけた。だが川村氏は74歳という年齢などから就任を固辞した。

 関係者によると、今年に入って米倉氏が榊原氏に就任を打診したという。現役の副会長には、トヨタ自動車や三菱重工業、新日鉄住金、東芝など有力製造業の現役トップがそろっている中で、住友化学の米倉氏は同じ化学品業界出身で関係の深い榊原氏に後を託した形だ。

 東レは三井グループの中核企業で、合繊業界では首位。榊原氏は社長在任中に炭素繊維で自動車部品向けの開発などを進めたほか、米ボーイングの旅客機「B787」向けの長期供給契約を平成18年に結んだ。ユニクロとの提携では、保温効果の高い肌着「ヒートテック」などのヒット商品を生み出し、6年連続で増益を達成するなど、大きく成長を遂げた。

 榊原氏をよく知る関係者は「何事も数字で判断し、納得しないと首を縦に振らない理論家」という。戦争で父親を早くに亡くし、大学や大学院時代の学費や生活費は奨学金とアルバイトで賄った「苦労人」でもあり、東レ社内では榊原氏を「熱い人物」と評する声が多い。米倉氏が榊原氏を後任に指名したのは、経営手腕とモノづくりに対する情熱が決め手になったとみられる。

 だが名門とはいえ、東レの連結売上高は約1兆6千億円、従業員は約4万人で、米倉氏が会長の選考基準に挙げた「日本を代表する製造業」としては小粒の感が否めない。日本最大の経済団体である経団連で異例の起用となった榊原氏が、どれだけ組織の求心力を集められるかは未知数だ。

 榊原氏には安倍晋三政権と歩調をあわせてデフレ脱却に向けた道筋をつけるとともに、経団連の運営のあり方の改革も求められる。就任を固辞した川村氏が「経団連という組織に疑問がある」と関係者に漏らすなど、財界活動のあり方には会員企業からも疑義の声があがる。

 例えば経団連の夏季セミナーや地方懇談会では、不規則発言を防ぐため、会長・副会長の発言も事前に事務局が模範発言を下書きしている。こうした“予定調和”が横行する現状に対し「小学生じゃあるまいし」と不満を漏らす副会長は少なくない。「企業経営に透明性が求められている時代に、こんなやり方ではいくら政策提言をしても信用されない」(財界首脳)と指摘する声もある。

 東レのコーポレート・スローガンの「イノベーション・バイ・ケミストリー」(化学による革新と創造)と同様に、財界総本山の経団連で榊原氏がイノベーションをどう実現するか。榊原氏のリーダーシップに注目が集まる。

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