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【底流】ドコモ「ツートップ」の誤算 止まらぬ顧客流出、極端な端末格差
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ソニー製「エクスペリアA」 今夏モデルのスマートフォン(高機能携帯電話)の商戦で、NTTドコモの模索が続いている。特定の2機種を大幅に値下げする「ツートップ戦略」で勝負に出たが、ライバルのKDDI(au)やソフトバンクモバイルへの顧客流出に歯止めがかかっていないためだ。
「どのスマホを買うか決めかねているユーザーに自信を持ってお勧めできる一押しのモデル」。
5月中旬に開かれたドコモの平成25年の夏商戦モデルの発表会。加藤薫社長は夏商戦モデル全11機種のうち、ソニー製の「エクスペリアA(エース)」と韓国サムスン電子製の「ギャラクシーS4」の2機種をこう紹介した。
ドコモは、自社の顧客がこの主力2機種に買い替えた場合、販売代金を大幅に割り引くツートップ戦略を導入した。10年以上継続契約しているドコモユーザーが対象で、従来型携帯電話からスマホへの買い替えを促すのが狙いだ。
エクスペリアAは実質5千円程度で、ギャラクシーS4は実質1万5千円程度で購入できる。6月末までの累計販売台数はエクスペリアAが約83万台、ギャラクシーS4が約40万台と計120万台を超え、「200万台も十分に狙える」(加藤社長)と鼻息も荒い。
ツートップの7月以降の売れ行きについて、「6月と比べると売れ行きはやや落ち着いてきたが、ツートップを指名買いをする顧客は多い」(都内の家電量販店)という。
ただ、ツートップ戦略は肝心の新規顧客の獲得にはつながっていない。契約先の携帯電話会社を変えた後も同じ番号を使える「番号持ち運び制度(MNP)」の6月の契約数増減を見ると、ドコモは14万6900件の転出超過と顧客流出に歯止めがかかっていない。
新規契約から解約を差し引いた契約純増数を見ても、6月のドコモは5900件のマイナスと苦戦が続く。
KDDIやソフトバンクモバイルなど他社に顧客が奪われる状況に変わりはなく、「ツートップ戦略は新規顧客の獲得の面ではドコモの期待どおりの成果は出ていない」(MM総研の横田英明取締役)との声もある。
戦略の誤算はこれだけにとどまらない。ツートップに選ばれた2機種とそれ以外の機種の販売台数に極端な差がついたことだ。ツートップ戦略の開始に伴い、6月から販売台数に応じて代理店に支払う販売奨励金を一時中止したことも販売の二極化に拍車をかけた。シャープやパナソニックなどツートップ以外のメーカーの今夏モデルの6月末までの販売台数は約1万台から約7万台と低迷している。
ドコモはこうした状況を打破するため、販売戦略を大幅に見直す。今月12日には、中止していた代理店への販売奨励金制度を再開。さらに、ソニー製を除くスマホを5千円程度の値下げに踏み切る。他社への顧客流出を食い止めるとともに、従来型の携帯電話からスマホの買い替えを促す。
これに対し、ライバルのKDDIとソフトバンクモバイルも指をくわえて見ているわけではない。他社から乗り換える場合、基本利用料の割り引きや端末の割り引きのほか、固定電話とスマホのセット割引を打ち出すなど、顧客争奪戦は一段と激化しそうな気配だ。
ドコモにとっての悩みは、他社にユーザーを奪われる構図が続いていることだ。月別でみると、MNPの制度が始まった18年10月から直近の25年6月まで6年8カ月連続で転出超過しており、累計は約517万件にのぼる。特に、米アップルの人気スマホ「iPhone(アイフォーン)」の発売以降、他社への流出数は増加傾向にある。
加藤社長は「ツートップ戦略の効果はすぐに出ない」と述べ、成果が出るには時間がかかるとの認識を示した。しかし、ツートップ戦略など一連の販売戦略が不発で終われば、昨年と同様に販売促進費の大幅な積み増しが避けられない。そうなれば、うわさされているアイフォーンの導入も現実味を帯びてきそうだ。