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パナソニック、サイバー事業の勝算は? バブル市場は強敵ぞろい
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パナソニックの新事業 今年5月。2年連続の巨額赤字を計上したパナソニックが、急増する「サイバー攻撃」対策事業に本格参入するというニュースが世界を駆け巡った。企業や大学などへのサイバー攻撃に使われるウイルスや感染経路を解析し、対応策などをアドバイスする事業を今年度中にも始めるというのだ。
しかし、同分野では、ラック(東京)、トレンドマイクロ(同)などのライバルが既に確固たる地位を築く。パナソニックは、家電で培ってきたブランド力を生かし、そこに割って入ろうとの思惑だが、果たして勝算は…。
「セキュリティーの専門企業でもないパナソニックが、サイバー対策を食いぶちにするとは…」
関西のある大手メーカー幹部は、半ばあきれつつ驚く。
実際に事業を手がけるのは、ITビジネスを手がける子会社、パナソニックソリューションテクノロジー(東京)だ。
あまり知られていないが、同社は、企業や組織にウイルスメールを送って情報を盗み取る「標的型サイバー攻撃」を防ぐ対策ソフトを販売済み。平成24年3月期の売上高は103億円だった。
しかし、新たに参入する事業は、このソフト販売事業とは一線を画し、「被害者の救急病院のような事業」(業界関係者)という。
ネットワークに障害が生じた企業、研究機関からの要請に24時間態勢で応じて原因を分析。サイバー攻撃と判明した場合は、特徴や感染経路を追跡し、具体的な対応策をアドバイスする。同社は、既存の対策ソフト販売を含むサイバー攻撃対策事業の売上高を27年度までに1億円に引き上げる方針だ。
パナソニックソリューションテクノロジーの社員は281人(25年4月現在)。巨大なパナソニックグループの中では、小所帯ながら、長年、グループのネットワーク技術の強化に取り組んできた。「米国企業とも肩を並べられる技術力」(関係者)を持つ社員も多い。
ある専門家はこう評価する。
「パナソニックグループのセキュリティーは、関西企業でもずば抜けている」
一方、事業の成否を不安視する意見も少なくない。24時間態勢で運営できるのかという「人材面」の課題があるからだ。365日フルタイムで全国のサイバー被害者に対応しようとすれば、「最低でも、1000人単位の専門家は必要」(業界関係者)という声もある。
将来的には、高度なネットワーク技術を持つコンピューターの専門家「ホワイトハッカー」の雇用も視野に入れるとみられるが、高い技術力を持つハッカーの雇用には高い賃金が必要になる。2期連続で7000億円台の巨額赤字に追い込まれた同社にとって、人件費の高騰はなるべく避けたいところだ。
民間調査会社IDCジャパンは、28年のセキュリティー対策ソフト国内市場規模が24年比約17%増の2219億円に拡大すると予測。
サイバー被害が拡大する中で、「バブルといっていい」(関係者)ほどの急成長市場だが、パナソニックにとって手ごわいライバルもひしめき合う。
24時間態勢でサイバー被害者の相談を受ける事業には、約300人のホワイトハッカーを雇うラックが既に参入。ウイルス対策ソフトについても、「ウイルスバスター」で有名なトレンドマイクロが、多くのシェアを占める。
パナソニックグループが関西に地盤を置くのも“弱み”だ。
あるセキュリティー企業関係者は「首都圏の経営者はセキュリティーへの投資意欲が強いが、関西の中小企業経営者の意識は低い」と指摘する。関西では、セキュリティー担当者を1人しか置かない中小企業もあり、「“根性論”で乗り切ろうする風潮もある」(専門家)とか。
パナソニックは主力だった自動車、住宅関連事業の業績が思わしくないだけに、サイバー事業にかける意気込みは大きい。中核事業に育てられるか、今後の経営手腕が注目される。(板東和正)