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脱中国…でも次に進めない日本企業 “海外ビジネス素人”の弱点露呈

ニュースカテゴリ:企業の経営

脱中国…でも次に進めない日本企業 “海外ビジネス素人”の弱点露呈

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「数年前から脱中国が言われていますが、中国に進出していた日本の中小企業の弱みがここにきて露呈しています。非常に危険です」

 世界各地を飛び回り、アジアビジネスにも20数年携わってきた方(A氏)の警告だ。比較的早い時期に中国で生産を始めた企業が、実績のわりに「外国音痴」というのだ。毎月のように中国に出張し、委託工場の事情にはもちろん猛烈に詳しい。ただ極論すれば、「それしか知らないんです」。

 したがって「脱中国」を図る時に他のアジア諸国に対して勘が働かず、彼のもとに「どこに行けばいいでしょう?」という相談が増えている。アパレルや雑貨などの業界が多い。

 この分野のビジネスの特徴は、中国で安く生産したモノを日本で「輸入販売」することだから、市場としても日本以外をみる必要がなかった。中国が初めての外国であり、その後も他の外国をみる機会がなかったのだ。

 「中国進出ブーム以前、海外との取引をやっている人は、いくつかの国の動向をおよそ知っていたんですけどね」とA氏は語る。 

 それで「脱中国を図りたいけど、日本には生産拠点を戻せない」という中小企業が路頭に迷い、社長のちょっとしたコネでASEANのどこかの地域に「エイヤッ!」で決めてしまおうとする。

 冒頭の「非常に危険」とは、この「エイヤッ!」について語っている。

 他方、日本市場のみでは売り上げ増が期待しづらい。「輸入」に加え「海外市場開拓」の発想が必要だ。「ASEANで生産した製品を日本以外の国でも売る」との段階に入った。今までに経験したことがない二つの問題に直面している。

 「台湾ならIT産業はもとより金型が強い。シンガポールは節税の国。インドネシアは大企業の生産拠点として外せないし市場規模は魅力だけど、中小企業がビジネスをするにはまだまだ潜在的リスクが高い。だいたい水道が使えないところがジャカルタ郊外でも多い…それに比べると、これから伸びるミャンマーへのアクセスも考えるとタイの評価点は高い」とA氏はアジアの勘所に触れる。

 ASEANに対してこういう勘が効いていない人の「エイヤッ!」は怖い。インドネシアやインドは注目市場だが「海外ビジネス素人」の中小企業には苦労が多く、実りを得るには時間がかかり過ぎる、とみる。会社をつぶさない程度に試行錯誤する範囲の見極めがしにくい

 A氏は続ける。

 「例えば、バンコクは人件費が中国地方都市の1.2倍。だから中国生産で得る利益はとれないわけです。コストだけ考えるとバンコクには行けない。でも中国に留まるのは危なそうだ。じゃあ、動くにはいつがいいのか?の判断をしないといけません。が、その読み方が分からない企業が目につきます」

 生産にせよ販売にせよ、海外に初めて出て一回目で上手くいくのは稀だ。それなりの失敗を重ね学習したあとに成功がある。但し、その途中の失敗が致命傷になってはいけない。だからといって緻密な事前調査に時間と費用をかけるのが厳しいのも中小企業の本音だ。

 しかもアジアは北米や欧州と違い、「日本語が通じてしまう」機会も多い。ASEANは「外国」ではなく「ASEANという名の隣の庭」だと考えがちだ。そこでビジネス開発の敷居が低いと勘違いしてしまう。

 中国からASEANへ風向きが変わりはじめている今だからこそ「非常に高い危険性が潜んでいる」、とアジアビジネスのエキスパートは注意を呼びかけているわけだ。

 ASEANの国々も一つ一つ違う。それを「中国であれだけ苦労したのに、今さらゼロから一つ一つ追わなければいけないのか…」と最初から気落ちするのは早い。それぞれの国の共通点と相違点を比較しながら「勘所」をおさえるトレーニングをすれば済む。コツの掴み方次第で前進できる。

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