ただ、財務官は「次官級の上がりポスト」とされ、次官になった前例はない。米中の通商摩擦など世界経済が火種を抱える中、「浅川氏の代わりに財務官を務められる人はいるのか」(OB)との声もある。
もう1人も、任期3年目の森信親金融庁長官(80年入省)だ。地方金融などに改革を迫る姿勢は安倍首相や菅義偉官房長官の評価も高い。だが、森氏の次官就任は、接待汚職を機に進めてきた「財政と金融の分離」に反するとの指摘がある。
既定路線温存の利点
2人が次官に就任すれば福田氏から入省年次が逆行するため、財務省ばかりか霞が関の省庁人事の常識を大きく崩すことになる。だが、財務省にとっては、岡本氏の次官就任など人事の「既定路線」をそのまま温存できる利点がある。
財務省は人事で政治の介入による恣意(しい)性を排することに腐心し、霞が関でも特異な対永田町の牙城を築き上げてきた。
政治の介入を極端に嫌うようになったのは、田中角栄首相(当時)の介入がきっかけだ。73~74年に旧大蔵省の主計局長を務め、福田赳夫蔵相(同)の後ろ盾もあった橋口収氏(43年旧大蔵省入省)が放漫財政に異論を唱えて田中氏の怒りを買い、事務次官に就任できなかった。