地方都市“人材獲得戦争” ノンフィクション作家・青樹明子
専欄中国の夏は“卒業の季節”である。今年は795万人の学生たちが社会に向けて巣立っていった。生まれると同時に始まる過酷な競争に耐えてきたのも、全て条件のよい仕事に就くため、といっても過言ではない。そんな彼らの就職戦線が、近年ある変化を見せ始めている。
これまで、有名大学を卒業するエリートたちは「北京・上海・広州・深セン」(北上広深)での就職を希望していた。しかし最近では、地方都市で就職するケースが目立ち始めている。地方都市の打ち出す優遇政策が「北上広深」の魅力を超えることもあるからだ。
地方出身者にとって、頭が痛いのは、戸籍と住居の問題である。たとえ北京で就職できても北京戸籍が得られるという保証はないし、家賃は高く、年収の何十倍といわれる不動産を購入するのは、至難の業である。
地方都市はそこに注目した。
新1線都市といわれる武漢・長沙・西安・成都などでは、戸籍を与え、生活補助金を用意し、住宅取得の援助もする。
長沙市(湖南省)では、年6000元(約10万円)から1万5000元の住宅・生活補助金を支給する予定だと発表した。
西安市(陝西省)も、大学卒業後3年もしくは5年以内ならば、審査なしに市が管理する住宅に入居できるとした。60平方メートルの賃貸料は、管理費を含めて毎月約170元という、破格の安さである。一般大学卒業生は1年間、有名大学の卒業生は2年間、この待遇を受けることができる。
住宅問題から戸籍問題までが解消され、生活補助金まで与えられる。それなら無理してまで「北上広深」で就職する必要はないではないかと思えてくる。
しかし問題はそう簡単ではない。まだまだ多くの地方出身者たちは「北上広深」で仕事する魅力を捨てきれない。
そんななか、アリババ集団の創業者・馬雲氏の言葉が印象的だ。アリババは、浙江省杭州市で創業した。北京でもなく上海でもない。
「北京は国有企業を好んだし、上海は外資系企業が多かった。しかし杭州は起業家、つまりゼロから始める人を尊んだ。民間企業が発展していくのを支持したので、優秀な人材が集まる結果となった。杭州は、起業家にとって良好な環境があり、未来へ向けて、力強く闘っていくという偉大な文化がある」
日系企業を含む外国企業も、「北上広深」に注目しがちである。しかし人材獲得戦争に参戦するということを考えれば、地方都市に進出するのも、ひとつの手段ではあるようだ。
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