トランプ流VSアップル、新政権を注視するIT大手 「国内生産」ならアイフォーン価格が1万円上昇!?

 

 【ワシントン=小雲規生】ドナルド・トランプ次期米大統領が政権発足に向け組閣作業を進める中、IT業界ではトランプ氏が規制や税制で強い権限を持つことへの困惑が広がっている。トランプ氏は大統領選の期間中、アップルやグーグルなどのIT企業をさまざまな理由で批判。各社は今後、次期政権とどのように渡り合っていくか、慎重に距離を測っている。

 「アップルは外見や出身、信仰、愛する対象が誰であるかを問わず、多様性を尊重する」

 アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は大統領選の後、社内向けメッセージでこう訴えた。若者が多く、社会改革の意識も強いシリコンバレーで、トランプ氏の女性や移民に対する差別的言動への嫌悪感が強いのを受けた発言で、アップルのトランプ氏に対する“遺恨”の深さをうかがわせた。

 トランプ氏は選挙戦で、アップルが主力商品iPhone(アイフォーン)を中国など海外で生産し、海外の子会社を使って課税逃れをしていると批判されていることに関し、「アップルに米国で製品を生産させる」と発言。これに対しクック氏は、一連の課税逃れ批判を「政治的なざれ言」と一蹴した。

 トランプ氏は、多国籍企業の米国での投資を促すため、各社が海外で蓄えた資金を米国に戻す際にかける税金を減免すると主張している。アップルが全資産を米国に戻せば「540億ドル(約5兆9400億円)の節税効果が生じる」との試算がある一方、米技術専門誌は、米国への生産拠点移転でアイフォーンの小売価格は1台あたり30~100ドル上昇すると指摘。海外での収入が全体の3分の2を占めるアップルの「米国回帰」が実現するかは微妙だ。

 トランプ氏はまた、「グーグルの検索エンジンは(民主党の)ヒラリー・クリントン候補に不利な情報を表示しない」と主張。アマゾン・コムのジェフ・ベゾスCEOが米紙ワシントン・ポストを買収したことについても「アマゾンを利するために政治的影響力を求めている」と糾弾した。

 さらに、ソフトウエアの開発者ら専門性の高い人材の就労のために発給される「H1Bビザ」について、トランプ氏は「廃止すべきだ」と言及し、IT各社の懸念をかき立てている。

 しかし、個人情報保護やIT技術者のビザ発給、インターネットサービスにおける公平性の確保など、IT業界が次期政権と詰めなくてはならない懸案は山積している。政界と産業界の関係に詳しい専門家は「巨大企業である各社が次期政権と事を構えるのは賢明ではない」と指摘する。

 実際、アマゾンのベゾス氏はトランプ氏の勝利から3日後の11日未明、ツイッターで「個人として心から成功をお祈りします」と祝意を示した。ベゾス氏はトランプ氏を「民主主義をむしばんでいる」と批判していただけに、IT業界では今後、ベゾス氏の次に誰がトランプ氏に「恭順の意」を示すのか注視している。