国・自治体の訪日客誘致、東南アジアに重点 年4000万人へ中国頼み脱却
2020年に日本を訪れる外国人旅行者を年間4000万人とする目標達成に向け、国や地方自治体、民間による誘致合戦が過熱している。中国の景気減速や円高の影響で、牽引(けんいん)役だった中国人客の消費に陰りも見え始める中、成長著しい東南アジアが重点市場として注目を集めている。
爆買い弱まる
15年の訪日客は過去最多の1974万人を記録。国・地域別では中国が約500万人と最も多く、韓国、台湾、香港を合わせて7割を占めた。今年は6月初旬に訪日客が1000万人を突破。5月には旅行者のお金の出入りを示す旅行収支の黒字が、前年同月比20.2%増の1254億円となるなど好調が続く。
中国最大の格安航空会社(LCC)、春秋航空と同じグループの「春秋国際旅行社」が14年秋から約1年間で主催した日本ツアーの参加者は約20万人。15年秋からの約1年間で2倍以上の約50万人に達する見通しだ。
一方、旅行大手エイチ・アイ・エス(HIS)の上海にある提携店は、6月に家電製品や高級時計などの特売会をメインに据えた東京行きツアーを予定していた。しかし中国政府が4月に海外で購入した商品に課す関税を引き上げたことで中止。急激な円高進行も相まって「爆買いはもう市場のトレンドではない」(HIS広報)との見方も強まる。
中国頼みの状況を脱するため、鍵を握る市場の一つが、日本から近く人口も多い東南アジアだ。ベトナムの首都ハノイで4月に開かれた国際観光見本市。日本の政府観光局や自治体、旅行業者などが出展したブースでは、多くのベトナム人が浴衣の試着やボールすくいなどを楽しんだ。大学生のチャン・ハイン・マイさん(22)は「日本の文化が好き。日本に行けたら桜を見たい」と話した。
ベトナムでも東京-大阪を結ぶ「ゴールデンルート」の人気が高いが、近年では雪を目当てに冬の北海道を訪れる人も増えているという。
ブースを出展していた岐阜県の担当者は「中部地方を中心とした観光をPRしたい。県内では飛騨高山や白川郷以外にも足を運んでほしい」と意気込む。
政府観光局はベトナム、フィリピン、マレーシアに事務所を新設し、現地でのPRを推進。政府はベトナム、フィリピンなどを対象にビザの発給要件の緩和を検討する。
滞在型観光を模索
各自治体の誘致合戦も活発化している。15年の訪日客の延べ宿泊数が前年の2倍以上の176万人に増えた静岡県。静岡空港に新規就航する国際線の着陸料を1年間無料とする条例を12年に制定するなど、同空港経由の誘客に力を入れる。09年の開港当初は週4便だった中国路線は、15年には最大で週42便となった。
奈良県は世界文化遺産の法隆寺など観光資源は豊富だが、宿泊施設が少なく訪日客が近隣の京都や大阪に流出する悩みを抱える。旅行消費額が日帰り客の8倍と推計される宿泊客を増やそうと、滞在型観光への転換を模索。今年3月には県有地に米系高級ホテル「JWマリオットホテル奈良」を誘致したと発表した。
同県の観光産業活性化の投資ファンドを運用するリサ・パートナーズ(東京)は「他の地域と一体となった周遊プランの売り込みや、大型ホテルから町家まで幅広いニーズに対応した宿泊施設の多様化が求められている」と指摘している。
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