南シナ海を米軍無人艦隊が航行する時代が…

AI新時代
AI軍事ロボット

 中国が軍事拠点化を進める南シナ海に、米国が無人ロボット艦で編成する小艦隊を航行させる-。近未来の出来事ではない。5年後にも現実となるかもしれない話だ。

 南シナ海のサンゴ礁を埋め立てた人工島に、滑走路や港湾施設を建設。さらに地対空ミサイルを配備する中国は今、ひそかに潜水艦の消音技術開発に取り組んでいる。海中に潜み、敵艦船の「領海侵入」を阻むためとみられる。

 これに対抗し、米国は海中に隠れた潜水艦を見つけ出し、攻撃できる無人ロボット艦「シーハンター」を開発。頭脳に搭載したのは人工知能(AI)だ。

 「シーハンターはわれわれが初めて建造する完全なロボットになる。5年以内に無人艦船の小艦隊も目にすることになるだろう。武器も搭載し得るか? もちろんだとも!」

 4月8日、米西部オレゴン州ポートランド市内を流れるウィラメット川の桟橋で行われた進水式で、ロバート・ワーク国防副長官はこう語り、無人艦隊を「南シナ海などどこにでも、派遣して運用する」という青写真を披瀝(ひれき)した。

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 全長約40メートル、排水量145トン、最大速度27ノット(約50キロ)。灰色の細い船体が特徴的なシーハンターは試作段階だが、搭乗員も遠隔操作もなしで航行する。

 詳細は「軍事秘密」としながらも、「レーダーで探知した情報を自ら分析する。海上衝突予防条約の規則に基づき判断し、航行するよう設計されている」。

 開発に携わった国防総省の国防高等研究計画局(DARPA)のアラティ・ブラバカー局長は、搭載されたAI技術についてこう説明した。しかも「潜水艦を探知、追尾し、さらに機雷を探知して掃海する機能には学習機能(機械学習)を含む」と胸を張った。経験を積むほど“賢くなる”というわけだ。すでに海軍第3艦隊の拠点、サンディエゴ海軍基地(カリフォルニア州)で、この春から実用試験が始まっている。

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 DARPAが推進しているのは単なる無人技術ではない。「人の手を借りず自ら判断できる自律型の技術だ」。DARPA戦術技術室のスコット・リトルフィールド氏はこう強調する。

 1958年の発足以来、DARPAは米軍に技術革新をもたらしてきた。インターネットやGPS(全地球測位システム)、ステルス技術、無人機など。革新的な軍事技術を次々と開発し、その多くは一般生活にも溶け込んでいる。

 AIを搭載した兵器の開発は「火薬、核兵器に続く第三の革命」と呼ばれている。6年前、DARPAは艦船運用の効率を上げ、兵員の犠牲を減らすことを主目的に、今回のプロジェクトを立ち上げた。ただ、国防総省の野心はそれだけにとどまらない。

 「殺人ロボットを国際的に禁止すべきだ」(ジム・マクガバン米下院議員・民主党)。そうした批判は専門家の間でも強く、国連などがAI兵器についての議論を始めている。だが、各国は秘密裏に研究開発を進めており、「議論のペースは氷河のように遅い」のが実情だ。

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 イスラエルが2月、「シンガポール・エアショー2016」で公開した無人攻撃機「ハーピーNG」が世界の軍事関係者に衝撃を与えた。完全自律型で、赤外線カメラなどで敵のレーダーを検知し、攻撃目標に突っ込み自爆する。「人間の許可なしに攻撃し、一度飛び立ったら戻すことができない」という長距離爆弾ドローンだ。

 イスラエルは、戦場で敵を急襲し、自軍の兵士を救出する無人機も開発中だという。その頭脳となっているのが人工知能(AI)である。中国はイスラエルから旧型の「IAIハーピー」を輸入し、「分解して模倣しようとしている」とみられているほか、「ロシアは将来、ロボット部隊を編成することを欲している」とされる。

 英国やフランスなども軍事ロボットの開発にしのぎを削る。韓国は北朝鮮との間の非武装地帯に、またイスラエルはパレスチナ自治区の飛び地、ガザ地区周辺に、それぞれ武装警備ロボットを配備している。

 「米国は(同分野で)ロシアや中国より進んでいるだろう。ただ、最も先を行くのはイスラエルだ」。かつて米国防長官室で自律システムの構築に携わった新アメリカ安全保障センター(CNAS)の研究員、ポール・シャーレ氏はこう指摘する。

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 AIを搭載した戦闘ロボットは、敵と味方を完全に識別できるのか。

 国防高等研究計画局(DARPA)の下で、米軍のロボット開発にあたるAIロボット研究開発の第一人者、ジョージア工科大学のロナルド・アーキン教授の実験室にはさまざまな形状のロボットが並ぶ。

 研究は複数のロボットが相互に連携し、仮想敵兵を発見、追跡するシステムの開発など多岐にわたる。なかでも自律型の無人攻撃機やロボットが戦場で「倫理的統制」「人工的判断」ができるシステムの開発に貢献しているという。

 例えば、戦車を探知したら「攻撃」。周囲に教会やモスクがあったり、民間人がいれば「撃ってはならない」。こうした「義務」と「禁止」の判断と動作を、交戦規則や国際人道法などに則してできるようにするわけだ。

 アーキン氏は「人間は戦場の重圧の中で失敗を犯すが、戦闘ロボットは人間より状況の把握と分析、行動にすぐれ、非戦闘員や兵士の生命を救うことができる」と指摘する。敵味方の識別も「10~20年を要するだろうが、できるようになる」と断言した。

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 AIが進化すると、懸念されるのは米映画「ターミネーター」のような「人間のコントロールから完全に独立して動くロボット」の登場だ。

 「倫理的なロボット兵器を製造することができるというのは幻想だ」

 「殺人ロボットはいずれ人間の脅威になる」

 「AI兵器の開発競争が人類に有益なものとなるはずがない」。

 科学者たちからもこんな脅威論は絶えない。それでも米国を筆頭に、各国のAI軍事ロボット開発は、秘密のベールに包まれながら急速に進んでいる。

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 米グーグルが開発したAI「アルファ碁」が、「世界最高の棋士」の一人とされる韓国のプロ囲碁棋士を破り、ニュースとなったのは今年3月のことだ。日進月歩で進化するAIは、世界に何をもたらすのか。AIがもたらす人類の未来図を探った。

◎まめちしき・人工知能

 人工知能という言葉の歴史は古く、米国の計算機・認知科学者のジョン・マッカーシー氏が1956年の国際会議で「アーティフィシャル・インテリジェンス」と命名したのが始まりだ。

 言葉そのものは広く浸透しているが、その定義は専門家の間でもはっきりしていない。「人間のような知能を持ったコンピューター」「人工的に作られた人間のような知能」など多様だ。一般的には「コンピューターで実現する人間の知能のような仕組み」と理解しておけばよさそうだ。

 最近は人間の脳の仕組みを参考にしながら学習や認識、理解、予測、計画など、さまざまな機能を実現している。

 人工知能はロボットとほぼ同じものと思っている人は意外と多い。人気マンガ「鉄腕アトム」などの影響とみられるが、両者は明確に異なる。

 単純にいえば、人型ロボットの脳に当たる部分が人工知能で、それ以外の手足を動かす仕組みは工学的な技術になる。

 ロボットカーなどと呼ばれる自動運転車も、周囲の状況を認識して自律的に対応することなど、本来は人間の脳が行う部分だけが人工知能に当たる。