“反原発首相”菅直人氏が絶叫 地元をあきれさせた川内再稼働「狂騒劇」
九州電力川内原発1号機(鹿児島県薩摩川内市)が再稼働した8月11日、同原発の正門ゲート前には、異様な光景が広がった。
駆けつけた民主党の菅直人元首相が「安倍政権は亡国の政権だ」と気勢を上げ、原発反対派の数百人が「安倍晋三は今すぐ辞めていいとも!」などと書いたプラカードを掲げて絶叫。「安保法制反対」「派遣労働をなくせ」と再稼働とは関係ない主張を展開するメンバーもいた。警察官への暴言や無断駐車が横行し、“無法地帯”と化したゲート前の狂騒劇は、今後も原発が再稼働するたびに繰り返されるのだろうか。
世間の批判もどこ吹く風
「安倍政権は安保法制を強行している。そして、原発の再稼働も強行した。安倍さんの頭には人々の声がまったく入らない。まさに安倍政権は亡国の政権だ」
九電社員が川内原発1号機の原子炉の起動前準備を進めていた8月11日午前10時すぎ、原発のゲート前では、菅氏が選挙演説さながらに身ぶり手ぶりを交えて熱弁をふるっていた。
再稼働に踏み切ったのはあくまで電力事業者である九電の判断だ。
しかし、菅氏は「再稼働をやっぱりやめようというのであれば、大嫌いな安倍さんに拍手を送りたいが、残念ながらそうはならないでしょう」と九電批判もそこそこに政権批判を連発。「子供や孫の世代に危ないプルトニウムを作り続けて誰が責任を取るんですか。総理大臣の首を1つや2つ取ったところで責任は取れないじゃないですか」と顔を紅潮させながら絶叫してみせた。
菅氏は再稼働前日の10日に現地入りして演説。11日も午前9時半すぎにゲート前に到着し、報道陣の取材に「政権は『原子力村』の司令塔である経済産業省にコントロールされている。原子力村の優等生が安倍さんだ」と持論を展開した。
「史上最悪の首相」
菅氏といえば、平成21年に誕生した民主党政権で、鳩山由紀夫氏に続いて22年6月に首相に就任。23年3月の東京電力福島第1原発事故の即時対応を誤ったことで「史上最悪の首相」などと批判され、半年後に退陣に追い込まれた。
脱原発の姿勢を強め、今年2月には欧州の非政府組織(NGO)の招きでパリで講演した。原発事故を振り返り、「原発は安全を管理しながら活用すべきとの考えを180度変えた」と強調。その上で「最も安全なのは原発を持たないことだ」「(福島原発は)コントロール下にあるという安倍首相は明らかに間違っている」「原発は(広島や長崎の)原爆と同じように多くの人に被害をもたらす」「21世紀は太陽エネルギーの時代になると確信している」-などと政権批判を交えて持論を展開した。
26年7月の参院選で党の公認を得られなかった候補者を応援したとして、所属する民主党から党員資格停止処分を受け、党内でも“孤立”を深めていた菅氏。そんな逆風にも動じず、脱原発を旗印に、自身の政治活動の原点ともいえる「市民活動家」に復帰したといえる。
昨年5月、福井地裁が関西電力大飯原発3、4号機の再稼働を認めない判決を言い渡した際には、法廷の傍聴席でガッツポーズ。短文投稿サイトで「勝った、勝った、勝った」と喜びをあらわにした。
事故当時の立場を忘れたのか、“反原発派のヒーロー”のように振る舞う菅氏に対し、インターネットの掲示板などでは批判的な投稿が続出した。
川内原発の再稼働をめぐる発言についても、「お前が言うな」「菅政権こそ亡国の政権だ」と一刀両断する書き込みが相次いだ。
「社民党」の車両登場
一方、そんな菅氏とともにゲート前に座り込んだ反対派の中にも、再稼働と関係のない政権批判に終始する集団がいた。
「原発の再稼働も労働問題を放置しているのも安倍政権の仕業だ」。労働組合の旗を持った女性は、周囲が再稼働に反対するかたわらで派遣労働の根絶を訴えた。「安保法案反対」「安倍晋三は今すぐ辞めていいとも!」「アベ政治を許さない」などと書かれたプラカードを持った人もいた。
原発沿いの県道には「社民党」の看板が付いた車両や、反対派メンバーのためのトイレ用の車両も登場。ゲートの入り口をふさぐように無断で駐車する車両が何台もあり、警察官が「ただちに移動しなさい 川内警察署長」と書いた紙を見せながら説得にあたる場面もみられた。
しかし、反対派は「その必要はない」と車内に籠城。警察官を小突くメンバーもおり、約3時間にわたってにらみ合いを続けた。
再稼働反対を訴えたいのか、政権打倒を誓いたいのか、はたまた日頃の鬱憤(うっぷん)を晴らしたいだけなのか。いまいち“思想”がはっきりしない集団の活動は、夜まで続いた。
地元住民は「迷惑です」
反対派の活動に対し、鹿児島県警はゲート前だけで数百人規模の人員を配備した。周辺では繰り返し検問を実施し、県道を通りかかる車の運転手に免許証の提示を求めたり職務質問をしたりするなど、厳重な警備態勢を敷いた。
福島第1原発の事故後、15原発25基が新規制基準に基づく審査を申請した。川内以外にも、四国電力伊方3号機、関西電力高浜3、4号機がすでに審査に合格し、再稼働に向けた地元自治体の同意手続きが進んでいる。今後、これらの原発が再稼働の段階に移れば、今回のような狂乱模様と緊迫が再び繰り広げられる可能性は高い。
警察の指示に従わない反対派の“同志”とともに、政権打倒への意欲とも受け取れる発言を繰り返した菅氏。その様子を目の当たりにした地元のタクシー運転手(68)は、苦々しそうにこう話した。
「菅さんや反対派はまるで自分たちが地元住民の代弁者であるかのようにアピールするが、僕らはむしろ再稼働を望んでいる。全国から勝手に集まってきて政治的な発言を繰り返されるのは迷惑な話です」
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