映画にも出演したこのゾウの名前は「ラジャン」といい、今年で63歳になる。インドゾウの寿命は約60年から80年ということなので、人間で言うと、シルバー世代のゾウなのだそうだ。もともとこの地で林業に従事していて、2002年までは、木材運搬の労を担っていた。その頃は、ラジャンさん(親愛の情と年上という敬意を込めて、さんと敬称で呼ばせてもらう)以外にも海中を泳げるゾウがいたそうだが、今では、このラジャンさんだけが「泳ぐゾウ」として、このアンダマン諸島のハブロック島にいて、余生を送っている。
ジュゴンやマナティの先祖は、もともとゾウに近い陸上動物だったといわれている。確かに皮膚の感じとかは、似ているし、マナティの前足には、ゾウと同じようなひづめの痕が残っている。
ゆっくりと海中を泳ぐラジャンさんを見守りながら、海に戻っていく生物の進化の過程を空想してみた。(写真・文:海洋フォトジャーナリスト 越智隆治(おち・たかじ)/SANKEI EXPRESS)