川が沸騰しているかのようだった。バシャバシャと激しく上がる水しぶきで、川面全体が沸き立っていたのだ。着火の主は無数のベニザケだった。
アラスカ南西部に位置するアラスカ半島。海と緑に囲まれたこの一画に、サケたちであふれかえる川がある。
幅はわずか5メートルほど。水深は数カ所の深みを除くと20センチ前後だろうか。水はもちろん、これ以上ないほど清らかに透き通っている。
満潮の2時間ほど前になると海と川の境目にサケが集まり始める。海から川へ押し寄せる潮に乗って、浅い河口を遡(さかのぼ)るためである。
もう海は魚群で埋め尽くされている。おびただしい数のベニザケたちが遡上(そじょう)のときを今か今かと待ち構えているのだ。浅瀬で行き詰まるサケの群れを目がけて、アザラシが弾丸のように突進していく。これほど捕らえやすい獲物も珍しいだろう。