リアルな演技、圧巻
過去に囚(とら)われ今日を生きることにも懐疑的な大人たちは、自分に自信を持てず他人に優しくもなれない。そんな大人たちの不安定な精神状態におびえながら、小さな力で恐怖に抵抗しようとする子供たち。脇を固める俳優陣のリアルな演技は圧巻で、子役たちに至ってはすでに磨かれた宝石のような輝きようである。撮影前の俳優たちに徹底した稽古を強いることでも知られているファルハディ監督の演出方法が功を奏したのだろう。いつか稽古風景をたっぷり見せてくれるメーキング映像の公開も期待したいところだ。
1本の映画でこんなにも考えさせられ、感じさせられ、驚かされ、納得させられ、思いださされ、気付かされ、悟らされ、学ばされ、祈らされ…。映画館を後にしながら、自分が数時間前よりも少し成長したことを実感する。今もまだ誰かと感想を語り合いたい衝動に駆られている。東京・Bunkamuraル・シネマほかで公開中。(映画監督 ヤン・ヨンヒ/SANKEI EXPRESS)
■ヤン・ヨンヒ(梁英姫) 1964年、大阪市生まれ。在日コリアン2世。映画監督。最新作「かぞくのくに」は第62回ベルリン国際映画祭で国際アートシアター連盟賞を受賞。他に監督作「ディア・ピョンヤン」「愛しきソナ」がある。