添えられていた手紙には、「手紙をありがとう。ぼくは地方でがんばって走っているので、機会があったら会いに来てね」などと書かれていた。差出人は目黒駅の駅長。恐らく駅長が車両になりきって書いてくれたのだろう。お役御免になったはずの車両ががんばって走っていると知り、随分とうれしかったことを思い出す。
結局、その地方路線に乗りに行くことはなかったが、出張や旅行で電車に乗るとやたらに興奮してしまう自分の原点は、もしかしたらこの時の思い出にあるのかもしれない。引っ越して目蒲線との縁が薄くなった今も、地下鉄乗り入れで路線が延びた目黒線に乗るたび、あのときの手紙を思い出す。
社会人になった今なら、駅長が個人的な時間と労力を使ってあの手紙を書いてくれたのだろうと予想が付く。東京五輪開催が決まり、日本全体が「おもてなし」力向上に余念がないが、ファンを獲得し、喜ばせるのは、こうした個人の地道な努力なのだ。
恥ずかしくて駅長にお礼を言えなかった子供はその後、しっかり鉄子に成長。今日も地下鉄の路線図を見て、にんまりしている。(道丸摩耶/SANKEI EXPRESS)