美術家、工藤哲巳の生涯を辿(たど)る大規模な回顧展が東京国立近代美術館で開催中だ。長く知る人ぞ知る存在であったが、今では欧米のアート界でも高い評価を受けている。東京と大阪のふたつの独立行政法人国立美術館、工藤が育った青森の県立美術館で開かれる今回の巡回展は、一見してわかりにくいだけでなく、複雑怪奇でさえある彼の仕事を振り返るうえで、またとない好機といえるだろう。
難解で醜悪 それこそが真骨頂
なにが難解なのか。絵画とも彫刻ともつかぬ工藤の作品は、どれも造形以前の肉塊のようで、見ていて気持ちよいものでは決してない。原色で塗りたくった色使いにヌメヌメした樹脂のような光沢。何重にも巻き付けられたひものような装飾のあいだからは目玉、口、鼻、さらには内臓やペニスを思わせる人体のパーツが見え隠れする。人によっては生理的な嫌悪さえ覚えるだろう。けれども、それこそが工藤の作品の真骨頂なのである。
工藤の作品は、見る者の心理や体感に思いのほか消えづらい傷を刻みつける。実際、数十年にわたる私の工藤体験は、その時々に、かんたんには忘れられないトラウマのような感触を残してきた。