彼のインタビューを視聴したり、文章で読んだりすると、よく遭遇するのが“サブジマイズ”という不可解な英単語だ。なまりが強いのかどうかはよく分からないが、まったくキャッチできない宇宙人の言葉のようだった。言葉の主は、「それでも夜は明ける」で先の米アカデミー賞作品賞などを受賞した英国の映画監督、スティーブ・マックイーン(44)。通訳たちに聞いてみると、マックイーン監督は主題を意味する「Subject Matter」(サブジェクトマター)をこう発音するのだそうだ。
欲深さや業を表現
この“サブジマイズ”からおのずと紡ぎ出されていく物語をしっかりと書き留めつつ、例えばハッピーエンドといった予定調和のひな型をぶち壊していくのが、マックイーン監督の真骨頂。いずれの監督作品でも、人間の恥部、欲深さ、業を、思わず目を背けたくなるほどむき出しに表現してきた。そのインパクトは、1月のニューヨーク映画批評協会賞の授賞式で、本作で監督賞を手にしたマックイーン監督のスピーチ中に、映像表現に嫌悪感を抱いた協会員のジャーナリストが激しいヤジを浴びせたほどだ。