佐野の誕生日は、エルビスの米国デビューアルバムが発売された日。佐野と「ナイアガラ・トライアングルvol.2」を作った大瀧詠一(1948~2013年)は、佐野のライブを初めて見た時「エルビスのようだ」と思ったという。そんな物語も母の嗜好(しこう)から出発したわけだ。
「両親が愛した雪村さんの歌声は、焼け跡から出発した戦後の東京で、かけがえのない復興の響きだった。家もモノも何もかも失った民衆に、天才的にスイングする歌声でワクワクした気持ちを与えたのだと思う」
当時のモダニズムを体現
雪村いづみは、時代離れ、日本人離れした超絶歌唱テクニックの持ち主であり、それは今回の録音にも十二分に表現されている。
「雪村さんは、当時のアメリカへオーディションなどに武者修行で単身飛び込んだ。そしてビートルズも出演した、有名なエド・サリバン・ショーにも日本人として初めて出演した」
日本を復興に沸かせた雪村いづみは、欧米のレベルを軽くクリアし、当時のモダニズムを体現していた。そして今回、佐野の作った「トーキョー・シック」も単なるノスタルジアにとどまらない勢いと情趣にあふれたアグレッシブなジャズポップスとなった。そこには佐野の秘めた想いがあった。