最新作はそんな彼女の勢いの秘密が伝わるライブレコーディング。ベースのアラン・ハンプトンやドラムのケンドリック・スコットといった若きつわものが脇を固め、シルキーな歌声をまるで楽器のように自由にあやつっていく。ハービー・ハンコックからシンプリー・レッド、ローリン・ヒルといったカバー選曲のセンスのよさにもうなってしまう一作だ。
新しい扉を開ける
活性化しているのはニューヨークだけではない。ロンドンから登場したザラ・マクファーレンも最先鋭のジャズシンガーといえるだろう。日本でもおなじみのDJ、ジャイルス・ピーターソンが大絶賛する彼女は、ジャズというよりもスピリチュアルなソウルシンガーというたたずまいではあるが、実際ジャズ・ジャマイカやニコラ・コンテといったジャズとクラブミュージックの境界線上で活躍するアーティストとの共演も多い。
新作「イフ・ユー・ニュー・ハー」では、闇の中から聞こえてくるようなブルージーなナンバーから、少しスモーキーながらかわいらしいスキャットまで披露する。けっして派手ではないが、ジャズの新しい扉を開けようとする強い意志が感じられる力作だ。(音楽&旅ライター 栗本斉(ひとし)/SANKEI EXPRESS)