【佐藤優の地球を斬る】
以前も書いたが、ロシアのウラジーミル・プーチン大統領(60)は、「元インテリジェンス・オフィサー(諜報機関員)は存在しない」という発言を好む。「諜報機関に勤務した者は一生、この世界の掟(おきて)に従うべきだ」というのがプーチン大統領の信念だ。
「裏切り者は敵よりも悪い」というのが、この世界の掟である。旧KGB(ソ連国家保安委員会)の場合、敵陣営に逃げ込んだ裏切り者に対しては、非公開で行われる欠席裁判にかけられ、死刑を宣告される。もっとも実際に殺し専門部隊が編成され、裏切り者を消すことは、ごく一部に限られた。KGBも役所なので、予算と人員に限りがある。小物にまでかかわっている暇はない。死刑判決を言い渡されたという事実は、逃亡した元インテリジェンス・オフィサーにとって心理的重圧になる。いつKGBの魔の手が迫ってくるかとおびえながら生活することになる。また、KGB現役職員の裏切りに対する抑止力にもなる。