「テロ捜査より顧客保護」選択に賛否 iPhoneロック解除拒否で
昨年12月に米カリフォルニア州で起きた銃乱射テロ事件をめぐり、米アップルは18日までに容疑者の「iPhone(アイフォーン)」のロック機能解除について、米連邦捜査局(FBI)に技術協力するよう求めた州連邦地裁の命令を拒否すると表明した。アップルのティム・クックCEO(55)は声明で「顧客のセキュリティーを脅かす前例のない要求だ」と主張。国家の安全保障にかかわるテロ対策よりも個人情報保護を選択したアップルの決断に対して、賛否の声が上がり論争が巻き起こっている。
乱射テロの男所持
「政府はアイフォーンに“バックドア”(セキュリティー機能を回避する裏口)を作れと要求している。それは作ってしまうとあまりにも危険なものだ」
クック氏は声明で、FBIには協力してきたと説明した上で、要請の理不尽さを訴えた。アップルは連邦地裁の命令に異議申し立てを行うとみられる。
米メディアの報道によると、FBIは、14人を殺害しその後射殺された容疑者夫婦の夫のアイフォーンを押収した。夫婦はソーシャルメディアでイスラム教スンニ派過激組織「イスラム国」(IS)への忠誠を誓っていたとされ、FBIはアイフォーンのデータ解析が事件の全容解明に不可欠とみている。しかし、間違った暗証番号を何度も入力すると、データが自動消去されるセキュリティー機能があり、ロックを解除できていない。
このため、FBIの申し立てを受けた連邦地裁が16日、協力命令を出した。
「今回だけ」保証なし
クック氏の声明によると、FBIはセキュリティー機能を回避できる新しい基本ソフト(OS)を作成し提供するよう求めているという。
クック氏は「そんな要求をのめば、ロック機能は数百万通りの番号を手当たり次第に試す“総当たり攻撃”を受け、簡単に解除されるだろう」とし、ハッキングに対する安全性が損なわれるとの懸念を表明。さらに、「FBIは今回の事件に限って使用すると言うだろうが、それを保証するすべはない」とし、当局による個人情報収集に悪用される可能性を指摘した。
米IT企業は、2013年に米国家安全保障局(NSA)の職員だったエドワード・スノーデン容疑者(32)が、通信傍受などで当局が大量の個人情報を収集していたことを暴露して以降、利用者の信頼回復のためセキュリティーを強化。捜査などへの協力も消極的な姿勢を示してきた。
「重要事例」「何様か」
アップルの決断について、スノーデン容疑者は17日、ツイッターで「市民が自らの権利を守ることができる世界の創出を目指すべきだ。この10年のIT業界で最も重要な事例」と述べ、評価した。
また米自由人権協会(ACLA)は「FBIがアップルに強制し、顧客のスマートフォンをハッキングできるなら、国民の人権を抑圧する他の国が同じことを行うだろう」とし、中国などを念頭に置いた批判声明を出した。
これに対し、保守派からはアップルへの批判が相次いだ。大統領選の共和党予備選に出馬している不動産王、ドナルド・トランプ氏(69)は米FOXニュースに「地裁の決定を百パーセント支持する。容疑者のスマホに侵入することを許さないアップルは何様のつもりだ」と攻撃。共和党候補のマルコ・ルビオ上院議員(44)もサウスカロライナ州で記者団に「ハイテクの巨人が政府の要請を自主的に受け入れることを望む」と述べた。
安全のため治安維持か、個人のプライバシー保護か-。米国は困難な選択を突き付けられている。(SANKEI EXPRESS)
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