なぜ、高い給料でも「ブラック」と呼ばれる企業があるのか。転職の際には何を指標とすればいいのか。法政大学教授が解説。現場で働く社員の声と合わせてお届けする。
理論編 生涯賃金+福利厚生の比較で一目瞭然!
トヨタ並みの給料で不満続出の理由
自分の働いている会社がブラックなのかホワイトなのか、どこで見分けたらいいのだろう。
「着目すべきは、入社後の『賃金の上がり方』です」
そう解説するのは法政大学キャリアデザイン学部の梅崎修教授だ。梅崎教授は高崎経済大学の小林徹講師との共同研究で、企業の標準労働者の賃金カーブを理論的に検討し、4つの企業分類案を提示した。
図の右側を見ると、高賃金で推移しているのがトヨタやメガバンクなどの「大手ホワイト」。次にモノづくりなどの製造業に多い「地味ホワイト」、その下に「キラキラ系ブラック(現実)」、最下層には賃金水準が相対的に低い「低賃金ブラック」が位置する。
4つの分類のうち、キラキラ系ブラックの賃金水準は現実には低い。だが、入社後早い段階で高い賃金上昇を描くこともあるため、図の左側に破線で示した「キラキラ系ブラック(幻想)」のように一見優良企業に見えることがある。
キラキラ系ブラックは急成長のIT系ベンチャー企業や不動産、流通業などサービス業に多い。メディア露出も多く、華やかなエリートが仕事の夢を語る姿は「あたかもトヨタの社員以上に個人の成長性が高いように錯覚させる」(梅崎教授)こともあり、就職・転職先として目移りしやすい。
「キラキラ系ブラックは新卒入社後の給与は大手ホワイト並みに高い。しかし現実は、30歳を過ぎると、一部のエリート以外はそれほど給与が上がらなくなり、40歳を過ぎると地味ホワイトに抜かれることもあります」(梅崎教授)
■ホワイトだと錯覚、そのカラクリは?
キラキラ系ブラックの多くは、「職務・役割給」の割合が大きく、成果給比率が高いので、成果を出すか上のポストに就かない限り給与が上がることはない。
それだけではない。梅崎教授は大学生や若手社会人には、30歳以降のキャリアパスが見えにくいと指摘する。
「例えば、有名小売業では入社後、店舗に配属され、がむしゃらに長時間働いて評価されれば2~3年後には店長に昇格します。そこから一生懸命仕事に身を捧げたとしても、さらに上のポストのエリアマネジャーに就けるのはごくわずか。30歳になる頃には行き詰まってしまう人が多く、辞めて転職するのを迫られるのです。言い換えると、辞めるから高賃金の人しか残らず、それゆえ全体が高賃金に見えてしまう」(同)