▽クルマ社会の地方では高齢者と高校生が乗客の中心
そうして運行を開始した「自転車積載バス」の利用者数は、2年後の98年の時点で年間約2400人であり、その6~8割が高校生であった(国土交通省資料より)。利用可能な総台数で考えればバス5~10台にようやく自転車1台が載っているくらいの計算で、やや寂しいが、そこから穿って考察すると、クルマ社会の地方でバスに乗ってくれるのは結局高齢者と高校生が中心にならざるをえないという現実の厳しさが浮かび上がる。
というのも、世帯当たり自家用乗用車普及台数で群馬県は1.648台と、福井、富山、山形に次ぐ第4位(2016年3月末現在。自動車検査登録情報協会調べ)で、全国屈指のクルマ社会だからだ。
そのようにして「自転車積載バス」利用者の大半を高校生が占めるとなると、運用上の困難としておのずと想起されるのが、学校が終わった後のちょうどよい時間帯の便に自転車を載せたい生徒が集中して、自転車積載可能台数を上回ってしまうという事態だ。これについて前橋市に聞いてみると、次のような回答が得られた。
「自転車でのバス利用者はたいてい決まった顔ぶれですので、重なってしまった場合には話し合いで譲り合う習慣になっているようです」(前橋市政策部交通政策課副主幹の飯島弘一氏)
これは、譲り合いのマナーが現場で醸成されている事例として微笑ましくもあるが、裏を返せば、譲り合いで済む程度に固定利用者が留まっているということでもあり、ここにも課題が浮かび上がる。運行開始から20年を経て電動アシスト自転車の普及が進んでいるにしても、“赤城おろし”と呼ばれる風の強さで知られる地域であるだけに、自走を避けて自転車にバスを載せる潜在ニーズは少なからずあるはずだからだ。
そのようにして日本中央バスの「自転車積載バス」は、利用者の大幅増という点で課題を残しながらも、自転車と一般乗客、さらには車いす利用者までが同じバスに乗り合わせる形態で運行を続けている。各地でバス路線の存続に赤信号が灯るなか、それは立派なことだ。なお高齢化の流れを受けてか、ノンステップバスなどへの置き換えが進み、現在では両路線ともバス1台に自転車2台までという積載台数になっている。