「伝説の営業マン」に学べ…青学を箱根駅伝V3に導いた原晋監督の人心掌握術 (4/4ページ)

 これまでの強豪校は、自主性よりも、監督の厳しさに背中を押してもらうケースが多かったのですが、原監督はこれと真逆の発想でチームを伸ばしました。原氏の著書『箱根駅伝監督 人とチームを育てる、勝利のマネジメント術』では、青学の象徴的なシーンが紹介されています。

 「沿道の声援に応えて手を上げれば、『よし、いけるぞ!』と声をかけてくれるのが原監督です。他の大学では絶対にないでしょうし、そもそも監督が怖くて、そんなことできないと思うんですよ」

 これは、著者の酒井政人氏が青学の選手を取材したとき、耳にした言葉です。このエピソードひとつをとっても、他の学校とは異なる、監督と選手の信頼関係が浮き彫りになります。スポーツの世界には長らく、厳しい上下関係がありました。監督の言うことをしっかり聞いて、その通りに動ける選手が評価されてきましたが、青学では、こんなにも選手の「自主性」が認められているのです。

 一度の優勝ならラッキーパンチのように思えますが、3年連続で結果を出し続けているとなると、本物と認めざるをえません。現代の若者育成で大切なのは、いかに「自主性」を引き出すか、ということなのです。

 部活動の場でも、ビジネスの場でも、これまで上下関係は確固たるルールとして存在してきました。もちろん、関係性に則した礼儀作法や役割分担は、社会人の常識として求められます。が、現代的な社会・ビジネス環境において、軍隊的な上下関係や、「昔からそういうものだった」と合理性に欠けるルールを押し付けるような理不尽な方法では、もはや人材のポテンシャルを引き出すことは難しくなっていると言えるでしょう。

 人の上に立つ人は、つい「自分の成功体験をトレースさせよう」としてしまうものです。が、自分の体験が部下や後輩にマッチするとは限りません。むしろ、成功体験を持つ者だからこそ、下の人間を教え導く場面を“自身の器の大きさを披露する機会”だと考えて、相手の個性や魅力を引き出してあげることに意識を向けるべきではないでしょうか。(上沼祐樹=文)(PRESIDENT Online)