仕事は週2日、年収100万円… 20代から東京で「隠居」する男性の暮らし
提供:PRESIDENT Online
できれば働かないで生きたいという人がいる。大原扁理さんは、その理想を実現し、20代から東京で「隠居」生活を送っていた。今回は、年収100万円でも楽しく暮らすための方法と、その費用の内訳を公開。低収入の中でさらに貯蓄もできたという生活術とは?
私は25歳~31歳まで6年間、東京の片隅で「隠居生活」をしていました。2016年の秋からは、拠点を台湾に移し、引き続きのんびり暮らしています。
若くして隠居というと、膨大な親の遺産があるとか、株やITなどで儲けてアーリーリタイアしたとか、特殊な世界の話と思われるかもしれません。しかし、私はそのどちらにも当てはまらず、25歳で無職となったとき、貯金は20万円程度でした。隠居のために多額の貯金は必要ありません。
私の東京での隠居生活から、現在の台湾での暮らしぶり、どうやって隠居を実現させてきたのかをご紹介します。
隠居という言葉には、人によって異なるイメージがあるようです。広辞苑を引いてみると、「職をやめるなど世間から身を引いて気ままに暮らすこと」とあります。特に高齢者と限ってもいないし、職をやめる「など」と、幅を持たせるような定義で、それぞれ勝手に決めていいですよ、というような懐の広い印象を受けます。
私の場合、「社会とは生きていくのに必要最低限だけつながっておいて、あとは好きなことをする」という感じでした。
「食べられる野草マップ」を脳内に作る
ほとんど自由時間なので、やりたいことをやったり、やらなかったりしていると、あっという間に1日が過ぎていきます。たいていは、散歩や読書、映画鑑賞、メールチェック、掃除洗濯、食材の買い出し、料理、公園で日なたぼっこ、よその庭を鑑賞、野草を摘みに出かける、など。
特に季節ごとの野草を摘みにいき、無料で食卓を彩るのは楽しいひとときでした。東京でも、ちょっと探せば食べられる野草はたくさん生えているんです。
春にはヨモギやノビル、イタドリ。初夏~梅雨にかけてはノカンゾウや桑。夏の盛りにはオオバがおいしい。秋はギンナンやドングリを、レンジでチン。頭の中の地図に、食べられる野草をマッピングしていき、毎年更新していきます。
ヨモギはフライパンで乾燥させて麺類に入れ、ノビルは細かく刻んでみそに漬けてそのままみそ汁に使い、ティータイムには桑の葉を乾燥させた桑茶を淹れたりして、けっこう楽しめました。
お金がないと、どうやってお金を使わずに楽しく生きるか必死で考えるので、日々の生活がとてもクリエイティブになっていきます。
仕事は週に2日程度、身体障碍者の在宅介護をしており、収入が平均で月7~8万円ありましたので、その範囲内で生活するようにしていました。単純計算すると、年間で約90万円になります。
また、年に数回、数少ない友人からときどき翻訳やライターなどのアルバイトを頼まれることもあります。こういった臨時収入は貯金に回したり、気が向けば近郊の日帰り温泉旅行に行ったりもしました。
東京で隠居生活をしていた5年間は、年収は合計100万円くらいでやりくりしており、貯金も30万円前後をキープするようにしていました。
1カ月の生活費をざっくり公開しますと、家賃28000円+共益費1500円、固定費15000円、食費1万円、その他15000円、合計69500円といった感じです。
▼家賃
生活費の多くを占め、さらに毎月払わなければならないのが家賃です。これを抑えられるとかなりラクになります。
東京に住んでいた時、私のアパートは国分寺市内にあり、5畳のフローリングと3畳のロフト、バス・トイレがついて家賃28000円でした。駅から徒歩20分も離れていましたが、遠ければ遠いほど安くなりますし、歩けば運動にもなります。あまり社交的でない私は、遠いことを理由に遊びの誘いを断れるので好都合でした。
東京都心から離れて多摩地区まで行くと、家賃の相場がぐっと安くなります。特にJR中央線沿線には大学も多いので、若い単身者用の安いアパートがたくさん揃っており、一人住まいで昼間に街をブラブラしていても目立ちません。
▼固定費
水道ガス光熱費、固定電話とインターネット回線が含まれます。
冷暖房はお金がかかるので使いません。夏は窓にすだれをかけて水浴びをし、冬は厚着と筋トレで体を温めていました。早寝早起きの生活も電気代を抑えるのに役立ちます。
インターネットは必需品なので、固定電話付きのものを契約し、携帯電話は解約しました。携帯を持っていないと外界からの連絡がつきにくく、簡単につながることができません。結果、よほど親しい友達でないと連絡をしてこなくなり、どうでもいい誘いにお金を使うこともなく、とても快適に過ごせました。
▼食費
外食はほとんどせず、3食自炊して節約していました。とはいえ、最大の節約は自分自身が健康であることです。
食べるということは人間が生きていくうえで最も基本の営みです。目先の安さにつられて質の悪いものを食べ続けて、将来病気になったときの出費を考えれば、少しくらい体によいものを買ってでも健康をキープするのは合理的だと思います。
また毎日、朝昼晩と食べるものをだいたい決めておけば、買い物に行ったときに、おつとめ品やセールに惑わされず、無駄な出費がなくなります。自分の置かれた環境で、無理のないメニューを求めていくと、だいたい以下のような感じに定着していきました。
朝・自作のスコーン、紅茶
昼・麺類(うどんかそば)と常備菜
夜・無農薬玄米、みそ汁、つけもの
年齢とともに肉食が減ってきて、ほとんど欲しなくなり、最終的に粗食と呼ばれるような献立に。粗食というのは昔から庶民の食事で、食べ方を間違えなければ非常に効率よく栄養がとれるようにできているんですね。
腹持ちがよく、栄養価の高い発芽玄米(無農薬)を基本に、みそ汁と1菜。これくらいの品数であれば、それぞれ国産や無農薬の質のいいものをそろえても、そんなに高くはつきません。1日の食費は300円です。
粗食にしてから過剰な欲望がなくなったのもいい変化でした。欲望と消費はセットになっているので、欲が減ると、お金を使うことも減っていきます。
ただ、こうした食生活が万人に合うとは思えません。必要な栄養は、生活スタイルによって各自違います。他人や世間は責任をとってくれません。自分で自分の体調を絶え間なく観察して確かめることが重要です。
▼その他(雑費・交際費・交通費・税金年金)
衣類はほとんど同じものしか買いません。それも、どこにでも売っているような基本的なものだけ。こうすると、いつでも買えるという安心感から、焦って余計なものを買うことが減ります。
選ぶのは、ベーシックで流行がなく、着まわせて合わせやすいもの。上は白無地の半袖Tシャツが5~6枚、チェックのネルシャツ2枚、黒のトレーナー1枚、コートが2着。下は短パンと黒いパンツが3本ずつ。これで1年着まわしていました。季節ごとに着るものも決まっているので、出かける直前まで何を着ていくか悩むということもなくなり、頭のなかもスッキリします。
プライベートで人と会うのは週に一度くらいでした。一人で行動するのが好きなので、友人は少なく、周りには私の性格を理解してくれる人しかいません。ですからあまり交際費がかからず、人のたくさん集まる場にも誘われにくく、たいへん助かっています。とはいえ、時には友人の誕生日など、都心のおしゃれなレストランで食事をするくらいの余裕もあります。
普段は自転車で行ける範囲を出ないため、交通費もほとんどかかりませんでした。
健康保険料は年1万円、年金はある時払い
また、所得税・住民税は年収が100万円以下でしたので発生せず、年金も申請して全額免除になりました。普通の後納制度は5年で支払期限が切れてしまうのですが(2018年9月30日まで)、免除にしておくと何年後でも後納することができます。国民健康保険料だけは納めていましたが、年間で1万円程度でした。
税金や年金については、払わないことを目的に生きているわけではないので、あるときに払えばOKということにしています。実際、2016年の所得は、私の隠居生活をつづった本(『年収90万円で東京ハッピーライフ』)の印税がありましたので100万円を超え、久しぶりに所得税や市民税を納めることができました。
周囲からは「将来のことをどう考えているのか」と聞かれることがあります。それについっては追ってご説明していきたいと思います。
(大原 扁理)
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