越乃Shu*Kura(こしのしゅくら)(4)観光列車は乗務員も“エンターテイナー”
江藤詩文の世界鉄道旅・夏休み特別企画世界の観光列車に乗ると、クルーのエンターテイナーとしてのプロフェッショナル意識の高さに舌を巻くことがある。それに対して我らが日本はというと、世界から“礼儀正しいが恥ずかしがり”という印象を持たれているようだ。
私の個人的な先入観だが、運行しているのはお堅い企業のJR、さらに新潟の人は奥ゆかしいのではないかというイメージもあり、「越乃Shu*Kura」の乗務員にエンターテイナーとしてのパフォーマンスは、あまり期待していなかった。
ところが。車掌も、サービススタッフも、ライブ演奏を披露してくれたミュージシャンも、蔵元イベントを主催した酒蔵さんも、意外にもみなさん、しゃべりがうまい。英語も使いこなし、外国人ツーリストとも楽しげに会話が弾んでいる。
ちなみに、この日乗り合わせたスタッフのみなさんは、全員が地元のご出身だった。沿線で生まれ育った人もいるため、そもそも新潟愛に満ちているうえ観光情報にも精通していて、下車後の楽しみ方についてアドバイスなどもしてくれる。聞けば、観光でいらっしゃるお客様にもっと新潟の魅力を知っていただこうと、仕事がオフの日は積極的に街歩きをして新しいスポットを開拓したり、スタッフ同士で情報交換をしているそうだ。
地元の3人組ジャズバンドが演奏したのは「Take the 'A' Train(A列車で行こう)」や「枯葉」といったジャズのスタンダード・ナンバーのほか、オードリー・ヘプバーンの映画「ティファニーで朝食を」のテーマソング「ムーンリバー」や山口百恵が歌った往年の歌謡曲「いい日旅立ち」など、ジャズ以外の曲目も含まれる。老若男女を問わず誰もが親しみやすく、外国人旅行者でも楽しめるように構成しているという。
蔵元イベントでお酒を振る舞っていた津南醸造は、日本酒を飲み慣れない若い女性や外国人にも親しみやすいタイプと、新潟の酒らしい定番の銘柄の2種類を提供していた。
酒よし、食よし、景色よし、人よしの新潟にすっかり魅了され、下車するころにはすっかり新潟ファンになっていた私。帰路に着く前、若い女性車掌に薦められた郷土料理「へぎそば」を、もちろん味わった。
■江藤詩文(えとう・しふみ) 旅のあるライフスタイルを愛するフリーライター。スローな時間の流れを楽しむ鉄道、その土地の風土や人に育まれた食、歴史に裏打ちされた文化などを体感するラグジュアリーな旅のスタイルを提案。趣味は、旅や食に関する本を集めることと民族衣装によるコスプレ。現在、朝日新聞デジタルで旅コラム「世界美食紀行」を連載中。ブログはこちら
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