加齢による難聴、補聴器の使用で快適生活 「早く使い始める方が効果的」

 
補聴器について説明を受ける高齢者=千葉県市川市の「ベスト補聴器センター」

 高齢化の進展とともに加齢による難聴の人が増えている。「自分はまだ聞こえる」「見た目が悪い」などと補聴器を敬遠する人は多いが、専門家は「早く使い始めた方が順応しやすく効果的」と指摘する。聴力の改善により家族との会話がスムーズになったり、趣味や活動の幅が広がったり。活動的なシニアライフの方策の一つといえそうだ。(兼松康)

 つけたがらない

 「お母さん、ほら、こっちだよ」。千葉県市川市の補聴器店「ベスト補聴器センター」。息子に付き添われて入店した高齢の母親には呼び掛けの声がよく聞こえないようだ。「お母さんっ! こっち」。声のトーンを上げ、店内のカウンターに促すとようやく気づき、「大丈夫だよ、ちゃんと聞こえてるよ…」。

 親の耳の聞こえを心配して連れてきた子供に対し、自分はまだ聞こえると言い張る親。同店の認定補聴器技能者、内藤幸輔さんはそうしたやり取りを「よくあることです」と話す。

 加齢による聴力の低下はゆっくりと進行する。加えて、家族など周囲の人が大きな声で話し掛けたり、テレビの音量を上げたりすれば聞こえるため、「難聴であることに自覚がない人は多い」と内藤さん。このため、「自分にはまだ補聴器は必要ない」と考える高齢者は少なくないという。

 周りとの調和

 千葉県市川市の主婦、大塚久子さん(84)は、4年前から補聴器を装着している。

 電車内のアナウンスの聞こえが悪くなってきたと思っていたある日。歩行中に後ろからきた自転車とぶつかりそうになった。ベルの音に気がつかなかったのだ。「自転車が何度もベルを鳴らしていたと周りの人に聞かされ、ショックでした」。その日をきっかけに補聴器をつけることにした。

 補聴器により聴力が改善したことで気持ちが晴れ、さまざまなサークルに参加するようになったという。「会話の中に入り、周りの人と調和が取れるようになった」と笑う。

 「実際、聞こえの悪さから付き合いが悪くなったり、出かけなくなったりする人もいる」と日本補聴器工業会(東京都千代田区)の宮崎裕司普及委員長は指摘する。

 小型化、おしゃれに

 見た目を気にして補聴器を敬遠する人もいるが、音の処理をするICチップの技術革新により補聴器の小型化が進んでいる。耳穴に入れるタイプでは、外からはほとんど見えないものも。耳にかけるタイプは、色のバリエーションや花柄などデザイン性を打ち出しているものもある。

 宮崎委員長によると、人間の聴力は40歳頃から、低下していく。耳鼻科で難聴を指摘され、補聴器の装着を勧められたら、なるべく早く使い始めた方がいいという。「快適に使うには慣れることが大事。早くからつけた方が順応しやすく、効果も早く表れます」

 ■出荷台数3年連続50万台超

 日本補聴器工業会によると、補聴器の売れ筋の価格は片耳15万円前後と高額だが、国内出荷台数は増加傾向にある。平成26年度は52万5980台で、24年度から3年連続で50万台を超えた。ただ、英国やドイツでは難聴者の補聴器使用率が30~40%なのに対し、日本の使用率は14%程度にとどまっている。同会は「英国やドイツは日本に比べ、補聴器使用への国の助成率が高いためではないか」と分析している。