鍛えたコテが照りを生む
職人たちが使う水撫ぜ鏝には、鍛冶職人が鍛えた鉄が使われている。熱した鋼をひたすらハンマーでたたき、日本刀と同じように作られた鍛造(たんぞう)品だ。現在流通するコテの大半は、鋳型(いがた)に金属を流し込んで固めた鋳造(ちゅうぞう)品だが、京壁の世界では鋳造品のコテではノロの出る土は生み出せないといわれている。
そこで黒田氏らが鍛造品と、一般に流通する鋳造品のコテを科学的に分析し比較したところ、表面の構造に違いがあるらしいことが分かってきた。黒田氏は「鍛造を通じてコテ表面に生じた磁気分布が水分子に作用して流動性を向上させている」とする仮説を提唱している。
「2つの味がある」。窯元に寄せられた感想
「味わい」という感覚的な部分にも、科学のメスが入った。
「ここの窯でつくられた器はお酒がマイルドな味わいになるものと、味の渋みが増し、飲み応えがあるものの両方があって不思議」
大津市木戸の窯元「日ノ出窯」では数年前から、ぐい飲み(やや大きめの杯)を購入した客からこんな感想が寄せられるようになった。中には「もうこの器以外は使えない」という声も。
「なぜそう感じてもらえるのか、理由は分からなかった」。経営者の岩崎政雄さん(68)は不思議に感じていたが、あるとき、知人を通じて黒田氏らの活動を知り、興味半分で器の解析を依頼した。