決め手は「ぬれ性」
黒田氏らが着目したのは、ぐい飲みに酒など液体を注いだ際に器と液体の接触面で起きる現象だ。
「マイルド」と感想が寄せられたぐい飲みにワインを注ぐと、器と液体の接触面がよくなじみ、液体が器に吸着しているかのように見えた。
固体の親水性を示す「ぬれ性」が違うのでは-。こう仮説をたてて検証することにした。「ぬれがいい」とは固体が水をあまりはじかない状態、「ぬれが悪い」とは水をよくはじく状態をいう。
器の表面に水滴をたらすなどして詳しく分析すると、味がマイルドに感じる器はぬれがよく、渋みが増すと感じる器はぬれが悪いことが分かった。さらに焼き上げる温度がぬれを決める器の表面の構造に影響していることも分かった。
器は1000度以上で焼き上げるが、その中でも低い温度で焼き上げた器はぬれが良く、高い温度で焼いた器はぬれが悪い。実験を進めたところ、その分岐点は1247度付近と判明。実は、日ノ出窯で焼成している温度だった。1247度に設定していても、窯の中で微妙に温度が違うため、ぬれがいい器と悪い器の両方が焼き上げられることになっていたという。
1247度は、器の表面にひび割れのような模様を入れる際に最適な温度として、岩崎さんが試行錯誤の末に見つけ出した温度だ。岩崎さんは「科学の力で自分の仕事の新しい魅力が分かったことがうれしい」と話す。現在は「味がまろやかになる」と「味に渋みが増す」の2種類の器をセットにして売り出している。
ただ、なぜぬれ性の違いが味の感じ方の違いにつながるのか、肝心な部分は分かっていない。黒田氏は「素材の特性の違いがなぜ感覚の違いになるのかをもっと調べたい」と話す。