工場労働とコルホーズ労働を
われらは護り、われらが国を護る、
大砲を積む、戦車の強力な突撃
速さと絶え間ない砲撃で。
砲火の轟き、鋼鉄の輝き
戦車は怒りの行軍につく、
同志スターリンがわれらを戦場に
筆頭元師がわれらを導けば!(福元健之訳)
これはもはやトラクターの歌ではなく、戦車の歌である。
しかも、この映画では、トラクター運転手が、戦車の運転手になるように上から誘導される。コルホーズの指導者と思しき人物がトラクター運転手の女性たちの前で「トラクターは戦車だ!」と言い切る。最後のシークエンスは、スターリンの肖像がかかる結婚式会場である。トラクター運転手のカップルを祝福する場面で、同じ指導者は「ドイツを打ちのめすために」「君たちトラクター運転手は、トラクターから戦車に乗り換える」と演説を打つ。新婦が「われらの土地も、一寸として譲らない」とうたうと、「敵はあらゆるところで撃退される!/運転手が起動装置を動かすならば/森でも丘でも水辺でも……」(福元訳)と全員でうたう。どちらも二拍子で猛々しい曲調である。
ドッペルゲンガーの「機械」
もちろん、ドイツやソ連ばかりではない。
イタリアではフィアットが1910年に最初のトラクターを完成したが、1917年にはイタリアで初の戦車となるフィアット2000を試作している。フランスのルノーも、19世紀末から20年間自動車を製作してきたが、1919年に最初の20馬力の履帯トラクター、HI型を完成している。これは、第一次世界大戦期に製作していた戦車をベースに作られたものである。ルノーもフィアットも両大戦期とも戦車や軍用車を生産していた。
ポーランドのウルスス社は、1893年に食品企業として創業するが、1922年に初めてトラクターを世に出した。しかし、そのあと5年でわずか100台しか製作できなかった。1930年に倒産の瀬戸際に立つが、政府が救済。その後、軍事用トラクターを700台生産している。