ノーベル賞の大隅良典さん「東大大学院での“運命の出会い”以来40数年」 夫妻会見一問一答
ノーベル医学・生理学賞に決まった東京工業大の大隅良典栄誉教授(71)が、受賞決定から一夜明けた4日、研究室がある横浜市緑区の東工大すずかけ台キャンパスで妻、萬里子さん(69)とともに記者会見に臨み、「研究者にとってこの上ない光栄」と改めて喜びを語った。一問一答は以下の通り。
--一夜明けた今、どんなことを思うか
大隅さん「3時間くらいしか寝ていないので実感が湧かないです。自宅に帰って酒でも飲んだら湧くのではないかと思います」
萬里子さん「やはり大変なことが起きたなと実感しています。カナダから電話をもらい、全世界から祝福してもらえる素晴らしい賞だと実感しました」
--受賞を伝えたとき、どんな言葉を交わしたか
萬里子さん「私は何でも信じるタイプなので、(大隅さんは)いつもからかってまともに物事を話してくれないんです。なので私は『本当? 嘘?』と。そう言っても主人は聞いてくれないのですが」
--(研究に大きな役割を果たした)酵母はどんな存在か
大隅さん「細胞のモデルとして最も優れた生物だと思っています。多くの材料があって自由に研究できる分野なので、いったん酵母をやるとなかなか離れられません。もちろん動物や植物の大きい細胞を見ると面白いなと思いますが、(細胞の)基本原理は酵母で解けると信じて付き合ってきました。私は酒が好きで、酵母はとても良い香りがするので実験材料としていいなと」
萬里子さん「私も日本酒が好きなので酵母に愛着があって、(以前の研究対象だった)大腸菌よりは酵母で良かったなと」
--酒は何が好きか
大隅さん「何でも飲みますが、たびたび醜態も演じている日本酒だけは警戒心がある。この頃はウイスキーが自分に合っているかなと思っています」
萬里子さん「私は節操がないので、その場においしいお酒があれば」
--奧さんにどんなところで支えてもらったか
大隅さん「東大大学院で所属していた研究室に(萬里子さんが)2年下の後輩として入ってきたのがきっかけ。運命の出会いとしか言いようがない。それ以来40数年付き合っていて、いろんな意味で深刻な意見の対立はなく、お互いにいいかげんなところがあって、それこそ空気のような存在。2人の息子の育児にどれくらい関わったかと聞かれると所在ない思いです。主婦と仕事をずっと続けていたので、よく働いてくれたと感謝しています」
--授賞式には夫婦で
大隅さん「はい」
--萬里子さんは大隅さんのどこにひかれたのか
萬里子さん「見かけ通り、穏やかでいつもにこにこしているので一緒にいて心が落ち着きます。いいかげんなので困ることもありますが、友人が『いいかげんなのは良い加減なんだよ』と言ってくれたので、そう思うようにしています」
--単身赴任だった時代の暮らしぶりは
大隅さん「飲み屋で食べるような食生活で、洗濯物もたまりにたまって掃除も全然しなかった。今思えば大変な生活だったのだなと思います」
萬里子さん「(単身赴任先へ)13年間よく行ってくれたなと思います。見に行ったら部屋はめちゃめちゃでしたけど、健康で過ごせたので良かったです。とてもいい研究環境で幸せそうにやっていました」
--今まで辛かったことはどんなことか
大隅さん「一番辛かったのは海外留学。大腸菌の研究をやっていた人間が受精卵のことを勉強して、おもしろいけど何をすればいいか分かりませんでした。酵母と出合ったのも不思議な縁で幸運でした。研究で遺伝子の作用が全然分からなかったが、辛い時期がずっと続いたわけではなく、研究が花開いた時期もあったので耐えられたのかなと」
--家に帰ったらどんなご飯を作ってあげたいか
萬里子さん「ぜいたくな人ではないのでご飯とみそ汁とお魚で十分だと思います」
大隅さん「昨日の昼から(飢餓状態の細胞内で起こる現象の)『オートファジー状態』ですが、気が張っているのか食欲は全然わかない。落ち着いたらビールでも飲みたいなというのは正直な思いです」
--これから時間ができたら一番したいことは
萬里子さん「庭仕事ですかね。(大隅さんは)草を取ったり枯れ葉をはいたりというのが好きみたいで」
大隅さん「それだとちょっとさみしい気もしますけどね」
--若い研究者へメッセージを
大隅さん「子供が何でも疑問を持って親に聞くということが、まさしくサイエンス。大人は知ったような気分になって基本的な疑問を忘れていく。学生諸君には、やりたいことをやれるというのが人生の楽しさ。親を説得するのは大変な時代だが、決意を新たにがんばってほしい。何とかなるさということがなかなか言いにくい時代になっている。若い学生が博士課程への進学を決意しにくい。システムを何としても変えていくのが私の義務だと思っています」
--自身の研究はサポートされてきたか
大隅さん「とてもありがたく思っています。研究費がネックになったことがなかったのは最も幸運だったと思います」
--基礎研究に費用が出にくいことについて
大隅さん「ノーベル賞受賞者が多いから日本は素晴らしいんだというのは間違いで、(基礎研究がおろそかにされたままでは)科学研究が空洞化してしまうという危機感は持っています。現役でいられる間はかなりの時間をそういうことに割いてみたい。若い人が5年、10年先まで考えてしたいことをサポートできるようにしたいです」
--どんなことを求めたいか
大隅さん「文教予算は大したものではなく、広げようと思えば広げられます。また政府予算だけでなく社会全体で支えるものだし、それに応えるのが科学者なのかと思います。日本は個人研究になっていて共有する仕組みができない。海外には学生とも研究成果を共有できる施設があります」
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