「特別天然記念物の一生をカネで買うのか」 ふるさと納税特典めぐり騒動に
出身地や応援したい自治体に寄付ができる「ふるさと納税」。自治体が容易に税収を確保できることから、寄付を集める手段として特典を導入するところが増え、プレゼント合戦が繰り広げられて久しい。しかし、特典がインターネットで転売されるなど、自治体の応援という本来の趣旨に反するケースが後を絶たず、総務省は4月1日、換金しやすい商品券などを贈らないよう全国の自治体に通知した。そんな中、特典は質素だが詳細な使い道を示すことで、住民の共感に訴える自治体が注目を集めている。「本道を貫く」と使途を明示して寄付を募る兵庫県もその一つだが、国の特別天然記念物、コウノトリに命名権を与えるとした特典をめぐり、騒動を巻き起こした。
700万円から4億5千万円に
キャビア、ヘラクレスオオカブト、ニュースキャスターになれる券…。これらはみな、ふるさと納税で寄付したことに対し、自治体からもらえる特典だ。
ふるさと納税は、故郷や応援したい自治体に寄付すると、2千円の自己負担を超える部分について居住地の住民税や所得税が限度額まで控除される制度。自治体によって特産品などがもらえるため年々関心が高まっており、自治体の側も寄付を増やそうと、特典合戦を過熱させている。
兵庫県南あわじ市は平成27年10月、それまで4種類だった特典を約300種類に増やしたところ、26年に約700万円だった寄付金は27年には約4億5千万円と跳ね上がり、県内1位の寄付額になった。特典効果はてきめんだった。
一方、26年には京都府宮津市が1千万円以上を寄付した人に750万円相当の土地を提供するとしたところ、総務省から「土地の提供は税控除できない可能性もある」と指摘をされ、中止したことがあった。
電子マネー、自転車はダメ
「生まれ育ったふるさとに貢献できる」「自分の意思で応援したい自治体を選ぶ」という本来の趣旨にそぐわない特典が目立つようになり、総務省は4月1日、全国の自治体に対し、換金しやすい商品券や、転売ができる家電製品などの贈呈を自粛するよう通知した。
総務省が自粛を求める品として具体的に挙げたのは、以下のものだ。
(1)金銭類似性の高いもの(プリペイドカード、商品券、電子マネー・ポイント・マイルなど)
(2)資産性の高いもの(電気・電子機器、貴金属、ゴルフ用品、自転車など)
(3)高額または寄付額に対し高すぎるもの。
ただ、強制力はないため、判断は各自治体に委ねられている。
南あわじ市の場合、旅行クーポンも特典になっている。市の担当者は「クーポン券は淡路島に足を運んでもらう仕組みの一つ。今のところ見直す予定はない」と説明する。
「犬の殺処分ゼロ」「子ども食堂」も特典
一方、豪華な特典に頼らず、詳細な使い道を公表することで寄付を募る自治体も増えている。
一般的なふるさと納税は、寄付金の使途について、「環境」「教育」といったおおまかな分野しか示されていないことが多い。しかし、兵庫県は26年度から、具体的に「神戸ルミナリエ」「神戸マラソン」「障害者スポーツ」など使途を明示した寄付の募集を開始。25年度に45件約1400万円だった寄付は、26年度には710件約6400万円となった。
さらに、今年度は一般公募などで次のような9プロジェクトを対象に追加した。
「児童養護施設や里親の下で育つ子供たちのクラブ活動費で使う用具の助成」
「経済的な理由で食事が十分に食べられない子供にご飯を提供する『子ども食堂』の立ち上げ支援」
「県立学校環境充実応援」
中でも県立学校の支援は、高校や特別支援学校計162校がそれぞれ使い方をホームページで公表する形で募集。今春、21世紀枠で選抜高校野球大会に出場した県立長田高校(神戸市)の選手の宿泊費などを集めるため2月に先行実施したところ、3千万円以上が集まった。
このほか、広島県神石高原町は、「県内の犬の殺処分をゼロにする」という目標を打ち立てて活動するNPO法人と連携し、犬舎建設などのための募金活動を同町のふるさと納税を使って展開。これまでに約4億3千万円の寄付が寄せられた。
豪雨で倒木などの被害が出た「船上山万本桜公園」の桜の復活(鳥取県琴浦町)や、「春の全国中学生ハンドボール大会」の継続(富山県氷見市)なども、目的重視で寄付を呼び込む作戦を展開している。
「コウノトリをモノ扱い」
兵庫県の井戸敏三知事は「特典を出すというのは、ふるさと納税の趣旨からすると違っている。事業の目的や趣旨に賛同して納税してもらうのが本道だ」と話す。だが、実は兵庫県もちょっとつまずいた。
国の特別天然記念物、コウノトリの命名権を特典にすることを公表したところ、批判が集中したのだ。
兵庫県教育委員会は、ふるさと納税で県に30万円以上を寄付した人を対象に、県立コウノトリの郷公園(同県豊岡市)で飼育するコウノトリの命名権を特典にした。寄付はコウノトリの野生復帰に向けた取り組みに使われる。
この命名権をめぐり、県教委は当初、「一生涯に渡って名前を使用する」と設定。しかし、県民らから「生き物に命名して寄付を募るのは不適切」「特別天然記念物の一生を金で買うのはどうか」などの批判的な意見が寄せられ、ネットでも「公序良俗に反する名前が付けられたらどうするのか」「コウノトリをモノ扱いしている」などと話題に。
さらに、コウノトリの郷公園があり、野生復帰に力を注いでいる足元の中貝宗治・豊岡市長も県に再検討を申し入れた。
県教委は発表からわずか2日後に命名権の期限を3年間限定に修正。県教委の担当者は「さまざまな意見を踏まえて決めた。混乱したままで募集を迎えたくなかった」と早期の解決を図ったという。
一連の騒動について、ネット上では「(修正せずに)そのままの募集で良かったのでないか」「何ら問題の解決になっていない」「3年後に違う名前になればコウノトリも戸惑う」など、県のドタバタぶりを批判する書き込みが相次いだ。
一方、英国王女と同じ名前のメスザル「シャーロット」の命名をめぐり賛否両論が起きた大分市の高崎山自然動物園。同じようにふるさと納税で1万円以上寄付した人を対象にオスザルの命名権をプレゼントしたが、反対の声はなかったという。
大都市住民が寄付の7割
総務省の統計資料によると、27年のふるさと納税は、東京圏と大阪圏、名古屋圏で暮らす住民からの寄付額が全体の7割を占めた。多額の寄付を集める自治体がある一方で、住民が他の地域に寄付をしたため収入を減らす自治体も出ており、2極化も課題だ。
ふるさと納税に詳しい神戸大大学院の保田隆明准教授(金融論)は「飼育にもお金がかかり、コウノトリの取り組みを応援したいという人から寄付を募るのは間違いではないと思う。ただ、発表の仕方や方法に改善の余地はあったかもしれない」とみる。
また、近畿大短期大学部の鈴木善充准教授(公共経済学)は「返礼品(特典)の還元率が上昇傾向にあるのは問題」と指摘。「ふるさと納税の情報公開の最低限の基準を統一し、実態を把握できるようにすることが必要」と話した。
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