今から約50年前、産油国で利用されずに放出されていた天然ガスを液化して利用する事業に先鞭(せんべん)をつけたのは、日本である。当時の東京ガスの首脳が未利用でクリーンなアラスカの天然ガスに注目し、マイナス162度で液化してタンカーで輸送するという技術が海外で開発されるや、いち早く東京電力を説得し、両社で大量かつ長期の引き取りをコミットして、事業化を実現した。
石油ショックの6年前のことである。先見の明と勇気ある経営トップの決断があった。
水素について日本が世界に先駆けて同様の取り組みをすべきである。水素もマイナス253度で液化する。タンカーでの輸送も日本の技術で実現可能だ。問題は、経済性である。水素燃料電池自動車の需要だけでは、水素液化事業は立ち上がらない。水素発電を早期に実用化し、大量に水素を消費する電力業界と一緒になって、水素社会の実現に取り組むべきである。
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【プロフィル】北畑隆生
きたばた・たかお 東大法卒。1972年通商産業省(現経済産業省)入省。官房長、経済産業政策局長を経て2006年事務次官。08年退官。日本ニュービジネス協議会連合会特別顧問、三田学園理事長。68歳。兵庫県出身。