特に食品加工業界ではさまざまな用途に使われる。たとえば、海洋深層水を用いてコメを炊くと、ふっくら、つやつや、もちもちのご飯が炊き上がる。これはコメの細胞壁にマグネシウムが付着し、炊飯時に細胞が壊れるのを防ぐ効果があるため。これを生かし、最近はスーパー、コンビニエンスストアの弁当やパックご飯などに用途が広がっている。煮崩れがしにくいという特長を生かし、魚の缶詰製造にも利用されている。
業務用の好調な販売を支えているのは、消費者の「食」に対する安全志向の高まりにある。業務用は主に、食品添加物の代替材としてミネラル強化や炊飯向けとして使われる。通常、ミネラル強化には食品添加物が用いられ、その場合、添加物表示が義務付けられる。海洋深層水のミネラルを使用した場合は天然食品原料100%であり、添加物表示する必要がない。
ところが15年4月の食品表示法施行に伴い、現在は任意となっている加工食品の添加物などの栄養成分表示が原則として義務化される。業者の準備期間を確保するため義務化は20年からで、「無添加」の表示を重視するメーカーにとって、海洋深層水の需要は今後も高まるばかりだ。
ちなみに、一般の飲料水などと異なり、業務用では最終製品のラベルに「海洋深層水」とうたうケースはほとんどない。「使用している量が少ない」(坂井さん)というのが主な理由で、商品の素材の良さを引き出しながら消費者に知られない、いわば“黒子”のような存在なのだ。