サントリーホールディングス(HD)が過去最大の巨費を投じて米ビーム社を買収する背景には、海外戦略にはブランド力が不可欠という業界事情がある。少子高齢化による国内酒類市場の先細りへの対応は急務。世界各国で浸透するビーム社のブランドをひっさげて、酒類需要が伸長する新興国などでの拡販に活路を求める狙いだ。
「世界でも類を見ない強力なポートフォリオ(組み合わせ)を持つスピリッツ(蒸留酒)事業が誕生する」。今回の買収でサントリーHDの佐治信忠社長が寄せたコメントには、今後の海外展開への手応えがにじむ。
消費者が実際に口にする食品や飲料は、愛着や安心感を生み出すブランドの力が、市場攻略の決め手となるケースが多い。別の大手飲料の幹部も、「攻略する国に、強いブランドがあれば、それを買収するしかない」と打ち明ける。
サントリーも2009年に仏清涼飲料大手・オランジーナ・シュウェップスを約3000億円で、昨年も英製薬大手グラクソ・スミスクラインの飲料事業を約2100億円で傘下に収めるなど、強いブランド買収が海外成長の原動力となった。今や海外売上高は3833億円(平成24年12月期)と全体の2割強に及ぶ。
昨年7月、株式非上場の“社是”を覆し、主力子会社のサントリー食品インターナショナルを東証1部に上場したのも、買収に必要な資金調達のため。今回の買収劇も、一連の海外戦略の延長線上にある。
「ジムビーム」などの有力ブランドを持つビーム社とサントリーを合わせたスピリッツ事業売上高の世界シェアは、英ディアジオなどに続く3位へ躍進する。買収額に見合う“果実”を受け取れるかかじ取りが注目される。(山沢義徳)