「オヤジを描かせてくれるのがソルマーレ」
少女漫画の作家たちの間で、こんな都市伝説が広がっているという。具体的には20~30代女子が40代男子にさまざまなシチュエーションで恋するという内容。ソルマーレとは、NTT西日本の子会社で、携帯電話向けデジタルコミック配信の最大手、NTTソルマーレ(大阪市中央区)のことだ。保守的イメージの強いNTTグループの中で、“飯の種”を必死で見つけようとする子会社の「進取の精神」が隠されていた。
色気や包容力…オヤジの魅力
ソルマーレは平成23年12月にデジタルコミック誌「オヤジズム」を創刊。その名の通り、40歳以上の男性を魅力的に描き、中年男性の色気や包容力、才能が、20~30代の若い女性をキュンとさせる-という筋書きだ。毎月第1金曜に定期配信している。
23年といえば、「年の差婚」が流行した年。山田雅一編集長によると、企画した当初は作家たちに「少女は描けてもオヤジは表現したことがない」といった戸惑いがみられたという。
しかし、読者が、自分自身を主人公に投影して新たな恋愛を疑似体験できることから、後にヒットする作品がいくつも生み出された。
ユニーク子会社
NTTグループは、携帯電話の普及による固定電話収入の減少をはね返そうとと、10年以上前から不動産や電力小売りなどの多角化に乗り出してきた。NTT西日本も平成14年に電子コンテンツを手がけるソルマーレを発足させた。
NTTグループの傘下とはいえ、もうけを出さなければ独り立ちできない。そこで、若い女性がオヤジに恋をするといったユニークなコンテンツを生み出し、ファンを増やしてきた。売上高は非公開だが、23年には携帯電話向けデジタルコミックを4万タイトル配信し、国内最大手の“称号”を手にした。現在の従業員は185人。
お堅いイメージのNTT西にあって、デジタルコミックを強化するNTTソルマーレは異彩を放つ。
単行本化も
同社の強みは、デジタルコミックで終わらせず、出版社と組んで単行本化にも乗り出し、読者層を広げていることだ。
連載は単行本にできるボリュームを想定しており、これまで完結してから単行本化されたタイトルは20作品を超える。単発ものを含めると40作品以上だ。
例えば、実業之日本社から単行本が販売されている『いちばん長い夜をよろしく』(田久よう子作)は、昼はしがないサラリーマンだが夜はDJに変身するオヤジに、失恋女子がクラブでぶつかって酒をぶちまけてしまい…というストーリー。身勝手な彼氏と口だけ上司に囲まれていた女子をDJオヤジが癒やしてくれる。
オヤジズム編集部には毎月、何本も投稿がある。中には実績のある作家の作品もあるといい、山田編集長は「オヤジものは他誌では書かせてくれないので、という作家さんが多い」とほくそ笑む。業界では「オヤジを描かせてくれるのはソルマーレ」という評判が定着しているようだ。
デジタルの利点は分量に制限がないことだ。紙のコミックでは掲載を断念していた単発ものの作品でも、デジタルコミックなら気にせず掲載できる。かといって「作品のクオリティーのハードルは下げない」(山田編集長)というから競争は厳しい。
テレビドラマと連動も
テレビドラマと連動した試みもある。TBS系列で放映された『ハンチョウ~警視庁安積班』は、放送と同時進行する形でドラマの内容をデジタルコミック化した(その後、竹書房から単行本発売)。ハンチョウこと安積剛志のキャラクターがオヤジズムにぴったりということで実現したという。
ソルマーレは海外展開にも余念がない。米アップルの「アップストア」を通じて31カ国に配信。昨夏からは韓国の出版社に作品を提供しており、「クール・ジャパン」のイメージがあるためか、翻訳されたオヤジズム漫画が意外な人気を呼んでいるという。ただ、2009(平成21)年から配信していた中国は昨夏の尖閣問題が勃発して以降ストップしており、再開のめどは立っていない。
海外では、草食系よりマッチョ男子
平成21年に参入した携帯電話向けゲーム事業でも北米の女性オタクをターゲットにした海外展開を加速させる。
同社によると、海外では「メガネ男子」や「草食系男子」など日本的なキャラクターは不評だという。海外での本格展開に当たり、「マッチョ系男子」など登場人物を変更するほかストーリーも改良し、市場開拓を図るという。
NTT西のユニーク子会社の成長戦略から目が離せない。(南昇平)