一方で新たなビジネスモデルとして掲げるのが「まるごとビジネス」だ。従来の商品単体ビジネスからパナソニック電工、三洋電機などグループ企業が持つ家電や太陽電池、住宅建材などの製品群を一括して取り扱うという、新しい形の自前主義への転換を図る。
シャープ・鴻海の提携について、鴻海側の狙いはシャープが持つ新型液晶との見方もある。鴻海は一般的な知名度は高くないが、電子機器受託生産の世界最大手で、売上高は10兆円に迫る巨大企業だ。
堺工場は今年1月から5割程度の減産を実施する一方で、酸化物半導体を使った新型液晶パネルの製造ラインを導入する方針。新型パネルは、アップルが開発中のテレビ用パネルとしての要求に届く可能性があるとされている。
新型パネルをめぐっては韓国勢との競争が激しく、同グループのトップである鴻海精密工業の郭台銘董事長は、さまざまなインタビューで「日本と台湾が組めば韓国企業に負けることはない」「台湾企業は知財を重視する」と話している。
今回の提携では、郭董事長個人が堺工場の運営会社に660億円を出資。「高度なテクノロジーの開発と国際的なブランド認知の構築を先頭に立って牽引(けんいん)する新しい役割を引き受けていくことを、世界に対して示すことになるでしょう」とコメントするなどシャープの技術力への期待は高い。
「台湾企業は日本と商慣習も近く、顧客への献身度も高い。中韓よりも信用できる」(商社関係者)と評価する一方、「すきあらば仕掛けてくる姿勢は当然持っている」と警戒の必要性を指摘する。
シャープの奥田氏は「特許はわれわれが保有するので心配ない。設計はシャープ本体で、堺工場ではない」と技術流出の可能性を低いとする。ただ、鴻海傘下の液晶メーカー、奇美電子とシャープの競合関係は継続する。現場での交流が増える中、どこまで技術情報の流出を防げるかは大きな不安となっている。(伊豆丸亮)