「中国に技術とられたらえらいこと」 日本電産・永守氏が大学経営に乗り出すワケ
かつて「元日の午前以外は休まない」と言いながら、最近は「モーレツの看板はもうあらへん。2020年には残業ゼロにする」と大転換して世間を驚かせたモーター製造最大手・日本電産(京都市)の創業者、永守重信会長兼社長が、また“名言”をぶち上げた。いわく「(財産を)全部使って、あの世やな」。3月、京都学園大などを運営する学校法人京都学園(同市)の運営に100億円以上の個人資金を投入する意向を表明したときの発言だ。翌月には、京都大に2億円以上を寄付して寄付講座を開設したことも発表した。「中国に技術とられたら、えらいことや」。同社をベンチャーから大企業へ育てた名物経営者の脳裏には、台頭する隣国に負けないように、ロボットやドローンなどの動力源となるモーターの技術者を育成するビジョンがあるようだ。(西川博明)
「子供には財残さん」
3月30日、永守氏が京都学園大などを運営する学校法人京都学園(同市)の理事長に来春以降に就任することになり、その基本合意書の調印が行われた。その席上、100億円以上の個人資金の投入を公表。その後の報道陣の取材に対し、こう述べたのだ。
「子供には財を残さんことや。(財産を)全部使って、あの世やな。(子供は)自分でカネ稼げと」
永守氏は、自分の死後、遺産相続となった場合に「税金払ったら、どこに使われるか分かれへん」と皮肉を込め、「けど、生前に寄付したらどこに使われたか分かるやろ」と続けた。
現在72歳の永守氏。もともと80歳を超えるころをめどに自分で大学をつくろうと思っていて、「準備をしていた」。
“第二の人生”は人材教育に力を入れるべきだという思いを強くしていたといい、今回、学校法人京都学園の改革に莫大(ばくだい)な資産を寄付するのは「教育に使うのがいいよ。将来、人材が出てくるもん」との理由からだった。
卒業生は「英語を話せて当然」に
永守氏が理事長に就任する京都学園は、京都府亀岡市、京都市内に京都学園大の2つのキャンパスを構え、平成31年に開設50周年の節目を迎える。
ただ、大手予備校の偏差値ランキングによると、偏差値は平均の50を下回る数字が目立つ。少子高齢化などを背景に全国私大の約4割が定員割れをしているとも指摘される中、京都学園大も「過去は定員割れがあった」(田辺親男・京都学園理事長)という。
日本電産は昭和48年に永守氏の自宅納屋を改造し、従業員4人で創業した。世界各国のモーター関連企業の買収・合併(M&A)を進め、今や「世界最大・最強のモーター企業になった」と自負する。M&Aでは業績の悪い企業を再生した経験もあり、「これ以上の人事はない」(田辺氏)と大学側の期待感は強い。
期待を一身に背負う永守氏。毎年発表される世界の大学ランキングで100位以内の日本の大学は東京大と京都大の2校のみという現状を念頭に、「日本の大学はぜんぜんあかん。われわれ企業など世の中がほしい人材を卒業させていないからや。英語もできない」と手厳しい。
今後の大学経営は企業経営と同じとし、「やっぱり世の中のニーズがある人材を育てるのが一番」と指摘。今後の京都学園大の卒業生は「英語を話せるのは当然」で、具体的なところでは、経済系学部では起業を目指す学生を育て、3年後の開設を目指す工学部(仮称)ではモーターやロボット、人工知能(AI)に詳しい人材を育てる方針だ。
「京大を抜く」
人材育成に力を入れるのは、日本電産の将来を見据えてのことでもる。
電気自動車(EV)やロボット、ドローンなど機械で電装化が進む中、動力源となるモーターは「鉄や半導体のように産業のコメになる」と永守氏。しかし、今後の世の中の需要を考えると、同社は「最大の問題は技術者不足。モーター技術者が足りない」というのだ。
大卒の新入社員を大量採用しても「モーターが分かる技術者はほとんどいない」のが現状という。
永守氏は工学系大学をつくり、モーターに詳しい技術者を育てる夢を膨らませていた。そうした中、京都学園側から「経営をお願いしたい」と打診があり、理事長就任を快諾。私財の投入も決めた。
多忙にもかかわらず、「来年からは先生になる。理事長兼教授やな。3カ月に1回は講義する」と意気軒高だ。京都市内で6月に行われた日本電産の株主総会では、普段は日本電産に関係がない質問は「拒否」していたのに、大学関係となると上機嫌に。
「京都学園大にお孫さんを入れるなら、今ですよ。しばらくしたら、簡単に入れませんで。これからこの大学は良くなりますから」とPRし、「周囲はひっくり返っているが、京大を抜く気持ちで(大学経営を)やりますよ」と高らかに宣言した。
“生涯経営者”強調
そんな“ライバル”の京大に、日本電産は4月、2億円超を投じてモーター技術を研究する寄付講座を設けた。
「(日本電産が優秀な京大生を)獲るために講座をつくったわけではない。そんな心が狭いことは言わない。日本のモーター技術の水準を上げるためや」。発表の記者会見で永守氏はこう笑い飛ばした。
京大では約20年ぶりのモーター技術を教える講座が復活した形になる。こうした大学の状況に、永守氏は危機感を覚えている。
「大学にモーターの研究講座がないのは社会問題。将来、中国とかに全部技術をとられたら、えらいことになる。日本に技術がなくなる」。日本電産で稼いだ利益を日本国内の大学に寄付することで「人材育成の好循環が生まれる」と期待を込める。
6月の株主総会では株主から自身の後継者問題を問われ、「健康状態は心配いりません。まだやりまっせ。120までやりますから」と“生涯経営者”である姿勢を強調した。
まだまだ名物経営者の動向から目が離せない。
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