人気爆発の「ハンドスピナー」、異業種も参入する事態 期待高まる一方、危険も…

 
人気に火が付いた米国では「フィジェット・スピナー」と呼ばれている(共同)

 指で回転させて遊ぶ「ハンドスピナー」。爆発的な人気の高まりを受け、玩具メーカーのほか機械部品メーカーといった異業種も参入し始めた。1000円台が主流だが、高性能品は1万円を超える。暇つぶしのおもちゃのように見えて、実はリハビリテーションに有効ともされ、業界の枠を超え盛り上がりを見せている。(板東和正)

空前のブーム

 「こんな素朴な玩具が…」。今年6月に東京ビッグサイト(東京)で開催された国内最大級の玩具見本市「東京おもちゃショー2017」で関係者を驚かせたのが、ハンドスピナー人気だ。仮想現実(VR)など最新技術を取り入れた新製品がひしめく中、ハンドスピナーのブースの行列は途切れなかった。

 ハンドスピナーは、手裏剣のような本体の中心を指でつまみ、羽根の部分を弾くと、シューッと音を立てて回転する。中には動きをなめらかにするベアリングが仕込まれていて、しばらく回り続ける。ただそれだけのものだ。

 昨年末に米国の経済誌などで「オフィスで使える玩具」として紹介され一躍有名に。ストレス解消や考え事をするときに回すと集中できる、という触れ込みで人気を集めた。

 日本でも、バンダイナムコグループの玩具メーカー「メガハウス」(東京)が今年6月、「フィンガースピナー」(希望小売価格・税抜き1500円)という商品名で発売した。千円前後の玩具の場合、年間10万個売れれば大ヒット商品とされる。それを「十分に狙えるペースで売れている」(同社担当者)という。

異例の展開

 人気の秘密は、一度手にしたら離せない中毒性にある。ハンドスピナーの普及活動を行う団体「日本ハンドスピナークラブ」の山本智也代表は「(平成19年にブームだった)気泡緩衝材を潰す感覚を味わえる『∞(むげん)プチプチ』と同じ手遊び系の玩具だ」と話す。

 ハンドスピナーはこれまで人気を集めたおもちゃと異なり、玩具メーカー以外の業種の参入も目立つ。

 ベアリング国内最大手、日本精工のグループ会社「NSKマイクロプレシジョン」(東京)は8月上旬に、1度弾けば連続12分以上の回転が可能というハンドスピナーを発売する。市場想定価格は1万6千円(税抜き)。同社は「ベアリング技術の認知度を高めるチャンス」(担当者)と意気込む。

 筋力低下や運動障害のある人のリハビリにハンドスピナーを試験的に採用している企業もある。ハンドスピナーを回すことで手から脳に良い刺激を与え、機能回復に役立つ可能性があるという。

けがの危険性も

 業界の枠を超えて可能性に期待が高まるハンドスピナーだが、安全性には課題もある。海外では、回転するハンドスピナーが目に当たって角膜を損傷した事故などが報告され、日本でも部品が外れやすい粗悪品や先のとがった形状の製品が流通している。

 事態を重くみた一般社団法人「日本玩具協会」(東京)は7月下旬、ハンドスピナーの安全基準を策定。既存の基準に「形状が鋭利ではない」「回転中に付属部品が外れない」などの項目を追加した。

 基準を満たした製品には今後、協会が安全性を保証する「STマーク」を付けられる。ただ、STマークのない海外製品が出回る恐れもあり、安全の問題が解消されたわけではない。

 近畿大学総合社会学部の清島秀樹教授は「ハンドスピナーは玩具やリハビリ用など幅広い世代の生活に密着する道具になる可能性を秘めているだけに、安全な使用方法についてより慎重に議論する必要がある」と指摘している。