東芝 鴻海とも交渉、停滞する半導体売却 「調整型」綱川社長の姿勢に疑問

 
東芝メモリ売却のスケジュール

 東芝が、2017年3月期決算をようやく確定させたが、上場廃止の危機を脱したわけではない。来年3月末に負債が資産を上回る債務超過を解消しなければ、やはり上場を維持できなくなる。債務超過を解消するには、半導体子会社「東芝メモリ」を今年度中に売却する必要があるが、官民ファンドの産業革新機構を軸とする「日米韓連合」との交渉は難航し、停滞感を強めている。

 暗礁に乗り上げも

 「来年3月末までの譲渡完了に向け最善を尽くす」

 東芝の綱川智社長は、10日の会見で交渉成立に向けた決意をそう強調したが、前提となる契約の期限については「可及的速やかに」と述べるにとどめた。

 東芝が日米韓連合を優先交渉先に選んだのは6月21日。当初はその1週間後の同28日までに契約したいとしていた。既に予定を約1カ月半も過ぎており、暗礁に乗り上げているようにさえみえる。

 売却に伴う各国の独占禁止法の審査は半年以上かかるといわれる。年度内の売却完了から逆算すると、8月から9月までには契約していなければならない。

 16年に東芝がキヤノンに医療機器子会社を売却した際には、競合関係がなかったにもかかわらず、審査をクリアするのに9カ月以上かかったことも考え合わせると、これ以上の遅延は許されない。

 交渉の足かせとなっているのが、三重県四日市市の工場を共同運営する米ウエスタン・デジタル(WD)との対立だ。WDは、売却差し止めを求めて国際仲裁裁判所に提訴している。「前哨戦」となる米裁判所の審問では差し止められずに済んだが、秋ごろに審理がスタートするとみられる「本番」の仲裁裁で、東芝の勝利が保証されているわけではない。そこで、仮差し止めの判断が下るようなら、売却計画が白紙になりかねない。

 こうした中、東芝と日米韓連合の間では、差し止められた場合のリスク負担をめぐり意見が対立。革新機構の志賀俊之会長は「折り合いがつかなかった部分について歩み寄った」と語るが、リスクを恐れる東芝はいまだに不十分とみなしている。

 綱川氏の姿勢に疑問

 東芝は「(日米韓連合と)目標時期までに合意に至らなかった」(綱川社長)として、台湾の鴻海(ホンハイ)精密工業やWDとも交渉を開始。社内には、高値売却が期待できる鴻海を推す意見や、WDとの和解を主張する意見もあり、一枚岩になりきれていない。

 東芝は、経営破綻した米原子力大手ウェスチングハウス・エレクトリック(WH)の買収や、15年に発覚した不正会計など、経営判断のミスで傷口を広げた。「こういうときはリーダーシップを発揮してほしい」。日米韓連合関係者は、独断専行を好まず「調整型」とされる綱川社長の姿勢に疑問を呈した。(井田通人)