仮面ライダーも乗らない!? 縮む日本のオートバイ市場 名作「トップガン」続編で復活なるか
米ハリウッドから日本の二輪車メーカーに朗報が舞い込んだ。俳優のトム・クルーズさん(54)を大スターの座に押し上げた映画「トップガン」(1986年公開)の続編が作られることが明らかになったのだ。米海軍戦闘機兵器学校を舞台にパイロットたちの青春群像を描き、迫力ある航空アクションが話題になった作品だが、主演のクルーズさんが劇中で愛用していた川崎重工業の二輪車ブランド「カワサキ」の「Ninja(ニンジャ)」も大ヒットした。あれから30年余り。「トップガン」の復活は、縮小する日本国内の二輪車市場を活性化させるか。
あのマーベリックが帰ってくる!
今年5月24日に放送されたオーストラリアのテレビ番組「サンライズ」。主演する最新作「ザ・マミー 呪われた砂漠の王女」(日本公開7月28日)のプロモーションのため出演したクルーズさんは「トップガン」の続編が作られることを認めた。
「本当だ。おそらく来年撮影を開始する」
さわやかに白い歯を見せ、そう語ったクルーズさんを見て、多くのファンの頭の中でケニー・ロギンスさん(69)が歌う「トップガン」のテーマ曲「デンジャーゾーン」が鳴り響いたに違いない。
そして、クルーズさんが演じた青年パイロット、マーベリックが「ニンジャ」に乗って疾走する姿を思い出したはずだ。
「ニンジャ」は、1984年に市販されたカワサキの大型二輪車「GPZ900R」の愛称だ。
アメリカンニューシネマの傑作「イージー・ライダー」(1969年公開)でもおなじみのハーレーダビッドソンはもちろん、日本勢でもホンダの「CB750」などが勢力を広げていた米国の大型二輪車市場に売り込むため、俳優のショー・コスギさん(69)が巻き起こした「ニンジャブーム」にあやかって命名された。
社内でも「ネーミングがダサくないか」と憂慮する声もあったというが、「トップガン」をきっかけに「ニンジャ」は注目を集め、米国で大ヒット。日本にも逆輸入され、カワサキを代表する二輪車となった。
ヤマハ発動機の二輪車レーシングチームで活躍するスペインのマーベリック・ビニャーレス選手(22)の名前も、「トップガン」に影響を受けた父親がクルーズさんの役名にちなんでつけたといい、その影響力は絶大なのだ。
イケメンの必須アイテム
クルーズさんに限らず、二輪車がイケメン俳優と切っても切れない関係にあるのは万国共通の話だ。
ヤマハ発が全面協力した大藪春彦原作、草刈正雄さん(64)主演の角川映画「汚れた英雄」(1982年公開)は、「YZR500」「TZ500」といった大型二輪車が総合モータースポーツ施設「スポーツランドSUGO」(宮城県)でレースを繰り広げるシーンが話題になった。
草刈さんに似た彫りの深いマスクで、レースシーンスタントを担当したイケメンライダーの平忠彦さん(60)も映画公開後、全日本選手権500ccクラス3連覇、世界GPフル参戦を達成。資生堂の男性化粧品「TECH21」のイメージキャラクターに起用されるなど人気者となった。
ヤマハ発といえば、TBS系ドラマ「ビューティフルライフ」(2000年)で主役の木村拓哉さん(44)が愛用していた「TW200」がヒットした話も語り継がれている。
しかし、二輪車の国内市場を見ると、販売台数は縮小傾向が続いている。
日本自動車工業会の統計によると、「汚れた英雄」が公開された1982年の約328万台をピークに、「ビューティフルライフ」が放送された2000年には約80万台に減少。昨年は約34万台にまで落ち込んだ。中でも排気量50cc以下の「原付き1種」の減少は著しく、1982年の約278万台から約16万台にまで減少している。
おじさんライダーに支えられるも…
2014年には、二輪車に乗るヒーローの代名詞ともいうべき「仮面ライダー」にまで裏切られる悲劇も起きた。テレビ朝日系「仮面ライダードライブ」(14~15年)はシリーズ史上初めて四輪車を運転するライダーを竹内涼真さん(24)が演じ、二輪車愛好家たちを落胆させた。
こうした深刻な「二輪車離れ」に、メーカーも危機感を募らせる。
1980年前後の数年間にわたり、両者の頭文字をとって「HY戦争」と呼ばれる熾烈(しれつ)な販売競争を繰り広げていたホンダとヤマハ発は昨年10月に業務提携を電撃発表した。
国内独自規格の原付き1種の維持を目指し、共同開発などで投資を抑制。海外で人気の高い排気量125ccクラスなどに経営資源を振り向け、収益性の改善につなげる方針だ。
スズキは2016年3月期連結決算で、二輪車事業が3期連続の赤字を計上した。2020年までの中期経営計画では、二輪車事業の「選択と集中による赤字体質の脱却」を掲げ、「スポーツ」「150cc以上」という特徴を明確にした製品の開発に注力する。
「1980年代に二輪車を購入した若者たちが年齢を重ね、現在も市場を支えている」(大手メーカー)というが、ライダーたちの憧れの的だった草刈さんも最近では、NHK大河ドラマ「真田丸」(16年)の乗馬シーンやスズキの軽乗用車「ワゴンR」のCMのイメージが強くなっている。
無人飛行機「ドローン」が空を飛ぶ21世紀に、「トップガン」がどのような形でよみがえるのかは興味深い。ただ、地上では、ハンドルやブレーキを操作しなくてもいい自動運転車に乗るのではなく、日本製の二輪車で疾走するクルーズさんの雄姿が見たい。(産経新聞社 経済本部 宇野貴文)
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