東芝半導体売却完了に3つのハードル WDの強硬策懸念、日米韓連合に死角も

 

 東芝の半導体子会社「東芝メモリ」売却の優先交渉先は「日米韓連合」に決まったが、東芝が目指す2017年度末までの売却完了には3つのハードルがある。米ウエスタン・デジタル(WD)からの提訴によるリスクは残ったまま。日米韓連合との契約には、状況に応じて支払いを凍結できる条件を盛り込む検討もされている。独占禁止法の審査にも懸念が残り、売却手続きはまだ波乱含みだ。

 差し止め裁定も

 「米国裁判所の判断が出る時期が一つの節目になるかもしれない」。東芝関係者は今後の東芝メモリの売却プロセスについてこう述べた。

 半導体生産で協業するWDは日本時間15日に東芝メモリの売却差し止めを求める訴えを米カリフォルニア州の上級裁判所に起こした。早ければ、7月中旬に売却停止の裁定が下り、売却手続きができなくなる可能性がある。

 東芝が売却手続きを円滑に進めるには、裁判所の判断が出るまでに東芝メモリの売却に反対するWDとの対立解消に向けた調整を加速する必要がある。

 だが、東芝の思いとは裏腹に、対立は収まる気配が見えない。WDは訴訟に動く一方で、自社が産業革新機構などの連合に合流する買収案を東芝に示したが、将来の経営権にこだわる案を東芝は認めず、折り合うことができなかった。東芝はWDとの協議を続ける構えだが、東芝関係者は「しばらく進展はないだろう」とため息を漏らす。

 東芝が対立解消の糸口が見いだせないまま、優先交渉先を決定したことで、WDがさらなる強硬策に出る懸念もある。東芝以外の関係先を相手に売却を阻止する訴訟を起こす懸念もあるとみられ、事態は一層緊迫した情勢となりつつある。

 支払い停止条件

 「係争がないことが投資をする上での大前提だ」。日米韓連合の関係者は東芝とWDの対立に先行きの不透明感が強まる中、問題を解決しない限り出資すべきではないとの声が連合内にあることも明かす。

 このため、日米韓連合は東芝メモリの買収契約に、状況に応じて買収に伴う支払いを凍結できるといった「停止条件」を盛り込むことも検討している。訴訟次第で日米韓連合による買収が頓挫する恐れもある。

 独禁法審査

 日米韓連合自体に死角がないわけではない。連合の一角であるSKハイニックスは東芝メモリと同業のため、独禁法の審査が長期化しないで済むよう出資ではなく融資で資金を拠出する方向だ。ただ、今後の連合への関わり方次第では「韓国に半導体が集中することをよしとしない中国の独禁法審査が厳しくなる」(関係者)との声もある。

 また、WDにとっても半導体の競合相手であるSKが連合に加わり、半導体工場の共同運営に関与することに反発する恐れもある。WDや関係者の思惑が複雑に絡み合い、東芝が思惑通りに売却手続きを進めることができるか予断を許さない状況が続く。(万福博之)

                  ◇

 ■東芝メモリ売却完了までの3つのハードル

 (1)WDの提訴

  WDが売却中止を求めて米国の裁判所に提訴、売却停止の裁定が下る可能性も

 (2)日米韓連合の停止条件

  日米韓連合は買収に合意しても、状況に応じて支払いを凍結できる条件を盛り込むことを検討

 (3)独占禁止法審査

  同業のSKハイニックスは融資で連合に入る方向も、関わり方次第では独禁法の審査が通りにくくなる可能性も