三菱商事社長・垣内威彦さん(61)

2017 成長への展望

 ■資源や食料の上流投資は長期視点で

 --トランプ米次期大統領就任で、米国や日本経済への影響をどうみるか

 「大減税やエネルギー開発推進、老朽化したインフラ整備に財政を積極投入する。となればどう考えても景気は刺激され、ドル高で株価も高い。1981年に就任したレーガン元大統領の経済政策『レーガノミクス』とうり二つだが、財政赤字を考えると、米国の好景気が1年か、4年続くかの見極めは今は難しい。日本も円安と株高で景気は良くなるだろうが、貯蓄ではなく、実際の消費につなげられるかが課題だ」

 --資源価格の上昇で経営環境は好転している

 「しばしの安らぎはあるかもしれないが、(2016年3月期に資源安で最終赤字に転落した)失敗や教訓を置き去りにすることはない。総資産や収益構造に占める資源の割合が高すぎた。16年度からの中期経営計画に盛り込んだ資源と非資源のバランスを見直す作業は道半ばで、構造改革の精神は堅持する」

 --ローソンの子会社化で大型投資を決めた

 「コンビニエンスストアのサービスはまだまだ変化し、成長できる。三菱商事と関係の深い地方スーパーや電鉄、銀行などと協業することで社会インフラとしての価値を上げたい。銀行業務に加え電子商取引への対応やヘルスケア事業へと広げたい。規模や利便性を追求するグローバル化商品を普及させると同時に、地方の優良スーパーとの提携を通じみそやしょうゆ、地元の漁協などの食材を使った弁当などをローソンにも取り込み、地方活性化にも貢献したい」

 --ノルウェーのサケ養殖事業など上流投資との相乗効果は

 「(商品企画などで)流通との相乗効果も期待している。相場の影響で損がでることもあるが、資源と同様に長期の視点で信念を持った投資で、あきらめずに踏ん張りたい。サケは天然資源だけでは乱獲で枯渇の恐れもあり、この事業経営には養殖事業を確立して安定供給するという使命がある。出資したココアやコーヒーなどのシンガポールの食品原料商社もアフリカの小規模農家の育成の社会貢献や将来のアフリカ市場開拓のためのネットワークにもなる」

 --米国のエネルギー政策をどうみる

 「従来の資源温存から、石油・ガスは開発して積極的に輸出する戦略に変わる可能性が高い。生産国として、カナダを含めた北米と中東の地位が入れ替わる可能性もあり、注目している」

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【プロフィル】垣内威彦

 かきうち・たけひこ 京大経卒。1979年三菱商事入社。オーストラリア三菱商事(シドニー)、生活産業グループ最高経営責任者(CEO)オフィス室長、農水産本部長を経て2010年執行役員、13年常務執行役員生活産業グループCEO。昨年4月から現職。兵庫県出身。