鉄道各社、沿線ベンチャーを後押し 運賃収入伸び見込めず、新事業創出へ協業
鉄道各社がベンチャー企業支援に乗り出している。出資の他に、駅や沿線施設など経営資源を新規事業の実証実験に提供するなどして早期の事業展開を促す。少子高齢化で今後、鉄道利用客の減少が見込まれ、事業の多角化が喫緊の課題となっている。鉄道各社は機動力に優れるベンチャー企業が生み出す新商品、新サービスを取り込むことで沿線の魅力を高め、街の活性化につなげる。
資本業務提携も検討
「スタートアップ企業と東京メトロが一丸となって、東京の魅力を世界に発信したい」。東京地下鉄(東京メトロ、東京都台東区)の奥義光社長は、10月27日に東京都内で開いたベンチャー企業向け説明会で参加者約170人を前にこうあいさつし、企業育成に注力する姿勢を見せた。
私鉄最大の輸送者数を誇る東京メトロが実施するのはベンチャー企業を対象にした新規事業創出プログラム「アクセラレーター2016」。起業支援を行うCreww(クルー、同目黒区)と共同で進める。すでに事業提案の受け付けは終了。12月5日に2次審査を行い、同15日に最終審査会を開く。
選ばれた提案のうち、試作品が完成していたり、試行サービスが可能なものについては、駅や車両、電子看板(デジタルサイネージ)など東京メトロが持つ豊富な経営資源を活用したテストマーケティングや実証実験を行う。これらの結果、協業ができると判断した場合は、資本業務提携も検討する。
大企業がベンチャー企業と協業することで新規事業の発掘を加速させる「アクセラレーター」。その先駆けとなったのが、2015年から東京急行電鉄が取り組む「東急アクセラレートプログラム」だ。15年度の最優秀賞に当たる「東急賞」を受賞したABEJA(アベジャ、同港区)は、人工知能(AI)で人間の顔を識別する技術を持つ。東急によると、この技術は商業施設でのマーケティングなどに有効という。また選に漏れたリノベる(同渋谷区)と今年3月に1棟リノベーションマンション事業で資本業務提携するなど、ベンチャー企業との協業を推進している。
出資でベンチャー企業を支援するのが阪急電鉄とJR東日本。阪急は15年3月にベンチャー企業を対象にした投資ファンド(基金)「梅田スタートアップファンド1号」を約2億円で組成し、今年11月11日に子育て支援ベンチャーのママスクエア(同港区)に出資した。JR東も4月、東大発バイオベンチャーのユーグレナ子会社などが運営するベンチャーファンドに資金を拠出した。
試行サービスに最適
鉄道各社がベンチャー支援に力を入れるのは、少子高齢化による沿線人口の減少が背景にある。日本の総人口は増加から減少に転じており、本業である鉄道やバスの運輸収入の伸びが見込めない。一方で各社は運輸事業以外にも、沿線を中心に百貨店やスーパーなどの流通、駅ビルや宅地開発などの不動産をはじめ、グループ会社を通じて多種多様な事業を展開している。
ただ、グループ内では本業から離れた事業の創出は難しく、新規事業で多角化を進めるためにはユニークなアイデアを持つベンチャー企業との協業が不可欠だ。
東京メトロと手を組むCrewwの伊地知天社長は「ベンチャー企業にとって鉄道会社は、独自の技術や製品、サービスのテストマーケティングに最適」と強調する。今後も鉄道各社によるベンチャー企業支援の動きは広がりそうだ。(松村信仁)
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■鉄道各社のベンチャー企業支援の取り組み
・東京メトロ
Crewwと共同でベンチャー企業向け新規事業創出プログラムを実施
・東京急行電鉄
単独で同プログラムを実施。受賞企業などと資本業務提携も
・相模鉄道
高島屋と共同で同プログラムを実施
・阪急電鉄
梅田スタートアップファンド1号を組成し、子育て支援ベンチャーなどに出資
・西日本鉄道
ITベンチャー対象の事業計画コンテストを実施
・JR東日本
ユーグレナ子会社などのベンチャーファンドに拠出
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