福島沖の海洋放射能が減少 ヒラメ、マアナゴ…「常磐もの」復活へ

高論卓説

 福島県沖の海水と海産物の放射能レベルが、事故前とほぼ同程度に下がりつつあることが、海洋生物環境研究所(海生研)や福島県などの調査から明らかになった。福島が誇る「常磐もの」のヒラメ、マアナゴの出荷制限も解除になり、9月の試験操業に向けて地元の期待が高まっている。

 2011年3月の福島第1原発事故により放出された放射性物質のうち海に流れた分は、東京電力のほか国や県、研究機関などが調べている。なかでも海生研は、1983年から全国の原子力施設沖で調査を続けており、30年余りの蓄積がある。

 16海域で年1回(核燃サイクル施設沖は年2回)、海水と海底土を採取し、放射性セシウムなどを分析。施設近くの漁場で水揚げされる海産物も年2回入手し、同様に調べている。結果は毎年、報告書にまとめ、公表している。

 6月には「事故前後の時系列データを比べることで、現在の正確な放射能汚染状況を把握してほしい」と、東京・市ヶ谷で報告会を開催。消費者や漁業関係者も耳を傾けた。

 報告によると、海水中のセシウム137は調査開始当初、大気圏内核実験によるものが全国で検出されていた。放射壊変と拡散によって次第に減り、86年のチェルノブイリ原発事故の影響で一時上がったものの、約16年で半減した。福島事故前5年間の濃度範囲は、海水1リットル当たり1.1~2.4ミリベクレルだった。

 同様に、海底土中の濃度は約20年で半減し、事故前は1キログラム(乾燥土)当たり検出下限値~7.7ベクレル。海産物の濃度も同様の傾向で減った。事故前は1キログラム当たり検出下限値~0.3ベクレルだった。

 事故直後からは、福島第1原発30キロ圏外の沖合海域(年4回、海水と海底土)と、その外洋海域(年2回、海水)を調査対象に加えた。13年11月からは、10キロ圏内(月1回、表層の海水)も対象にした。

 その結果、海水中のセシウム濃度は、事故直後には事故前の水準を大きく上回ったが、事故後1年で急速に減り、30キロ圏外で事故前とほぼ同レベルに、10キロ圏内でも1リットル当たり1ベクレル程度に下がった。海底土中の濃度も1キログラム(乾燥土)当たり13ベクレルまで減った。

 海産物で食品衛生法の基準値(一般食品1キログラム当たり100ベクレル、飲料水1リットル当たり10ベクレル)超えは、東日本太平洋側(福島県沖除く)の魚類15種から検出されたが、14年9月以降は検出されていない。

 一方、福島県も11年4月から海産物への放射能影響調査を始めた。その結果、セシウム濃度は明らかに低下していた。食品衛生法の基準値超えは、直後の4割から昨年4月以降ゼロに。昨年7月以降は、9割が不検出になっている。

 12年6月からは、安全性が確認された魚種に限り、試験操業と販売を始めた。1キログラム当たり50ベクレルを自主基準とし、漁協と水産試験場で毎週200検体前後を検査している。結果、ほとんど不検出で、操業の対象は73種に増えた。とはいえ昨年の漁獲量は、震災前の5.8%にすぎない。

 県農林水産部は「新・小名浜魚市場に続き、相馬市磯部水産加工施設が竣工(しゅんこう)した。9月には相馬原釜地方卸売市場などができる。ヒラメやマアナゴの出荷制限解除を機に『常磐もの』を復活させ、風評という壁を破りたい」と意気込む。「一日も早く本格操業を」と、地元漁協の関係者らも口をそろえる。

 地道な調査による科学的データで風評を払拭し、福島県沿岸の漁業再開につなげたい。

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【プロフィル】東嶋和子

 とうじま・わこ 科学ジャーナリスト、筑波大・青山学院大非常勤講師、筑波大卒。米国カンザス大留学。読売新聞記者を経て独立。著書に「人体再生に挑む」(講談社)、『水も過ぎれば毒になる新・養生訓』(文藝春秋)など。